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第43話

「…良いね。猫目。好きだよ」 「……」 「あれ。なんか凄い目して睨んでる。そういうのも好きだけど。猫目睨み。最高」 「…男娼の言う”好き”なんて、信じられない」 「…ここに来て信じられないなんて言われたの、初めてだよ」 ひどいなぁと言いながらも、弘はなぜか嬉しそうに笑っていた。 髪を洗っていた隙に引き離していた身体を、再び引き寄せられる。 腹に回された掌は、真の程よく鍛えられた腹筋を指で一つ一つ確かめるように撫で上げていった。 「テーマパーク。行ったことあるでしょう。テーマパークに行って、キャラクターが手を振ってくれることを疑う人はいないじゃない。みんなお金を払って、その時間だけ夢を見る。だからここにくる人はみんな夢を見ることを疑わないし、夢見荘の男は、夢を見せるためにここにいる」 「……くすぐっ…たい……」 「言ってくれたら、何でもするよ…この時間俺は、まこのものだから」 「何でも…?」 「何でも」 「何、でも…」 弘が”ママ”と呼ばれていたことを、なぜかこのタイミングで思い出した。 男を母親に見立てて抱かれるということが、夢を見る世界では叶うらしい。 ”自分のもの”。 誰かをそんな風に思ったことはあっただろうか。 そもそも、”ママ”を交えてする行為って、どんなものなんだろうか。 ママ。ママ。エプロン? エプ、ロン?? 弘は下を向いて固まる真のうなじを見つめていた。 あまり自分のことを話さないが、あれこれ考えていることは、様子を見ればすぐに分かる。 伏し目がちな瞳は、理性で感情に蓋をしているようにも見えた。 その蓋をゆっくりと開けてみたくなる好奇心に、身体が疼く。 弘にとって真は、何とも興味深い存在だった。 「今何か想像してたでしょ」 「し…てない。してない」 本当?と弘が意地悪そうに笑う。 真の腹に這わせていた掌を、少しずつ上の方に持っていった。

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