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第44話
「…ねぇ。”分からない”ままじゃ、だめなの?」
「え?」
肩越しに呟かれた言葉に、真が振り返る。
「まこが求めているもの。”分からなかった”じゃ、だめ?」
「それじゃあ…ここに来た意味が……」
「本当に?”俺に会いに来た”っていうのじゃ、だめなの?」
「え…」
「そういう意味の持たせ方も、あると思うんだけどなぁ…」
真の、分かりやすいほど大きく見開かれた目は、
驚きで表情を失っている。
こういうところだ。
こういうところが、信用できないんだ。
少し気を許したかと思うと、すぐ思わせぶりな事を言う。
甘い笑顔、甘い声、甘い言葉。
夢の中の男は、人を酔わせる術を知っている。
真が固まっているその隙に、弘はゆっくりと掌を胸元に持ってきた。
指先で、胸の先を軽く撫で上げる。
「あ、ちょっと…」
「そうか…だめか。だめかぁ」
「いや…だめっていうか……うゎっ」
突然感じた違和感に、真は背中を弓状にしならせた。
湯船の中で張り詰める弘が、腰元に当たっている。
湯の中でも分かる程熱を持ったそれは、少しばかり真に焦燥感を与えた。
「ひ、弘…」
「…入れないから。当てさせて。当てるだけ」
入れられる。そう思っただけに、思わず安堵の息が漏れ出た。
「嫌なら嫌って言って良いんだよ。嫌がることはしない」
「そう言ったって、触るだろ… さっきだって…」
「ふふふ…バレたか」
弘は笑いながら、バスタブの端を両手で掴み、体勢を立て直した。
右掌で背後から真の目を覆って視界を塞ぐと、
胸を弄んでいた手をそのまま真の足の間に滑り込ませる。
「何も考えなくて良いから。ただ、感じてみて。少しだけで、良いから」
「ひ…ろし………」
「俺は、触りたい。まこに触りたいよ」
「それ…ずるくないか…」
そんな言い方されたら、断れない。
結局、弘の良いようにもっていかれている気がする。
「…こういうの、慣れ、ない…」
「知ってる。でも…まこもずるいよ。嫌がってるみたいに、見えないから」
夜の男の恐ろしい魔力に、身体が飲み込まれていく。
理性を盾に応戦しようとも、壁はいとも簡単に崩されていく。
目的を手放して、ただ溺れていくのが怖い。
下半身に受ける甘い刺激はまた先ほどの疼きを思い出して、
引けた腰が弘に圧をかけてしまう。
左耳の後ろで、小さく息を吐く音が響いた。
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