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あの日約束したから【涼視点】
塁斗は上背こそ同年代の平均よりわずかに上ではあるものの、やわらかな雰囲気と時折見せるはにかんだような困ったような表情の放っとけなさで、入部するなりたちまちに部内の愛されキャラの位置におさまった。
うちの部は顧問の方針で坊主強制ではないから、学年問わずほとんどの部員がプレーの邪魔にならない程度に髪を伸ばしている。キャップやメットを脱いだ瞬間にふわりと揺れる塁斗の艶やかな黒髪が俺は好きだった。
本人の希望もありどうせバレるのだからと、顧問を通じてΩであることが公表された。
大事な試合と発情期が被ったらどうするのか、フェロモンにあてられる部員が出たらどうするのか。本人の危惧するところと周りが不安に思う部分は概ね一致している。
そして別の問題もあった。
αやβの中にはΩを見下す者もいる。この部の中にもそんなβがいた。
俺が二年、塁斗が一年でまだ入部間もない時。練習前に部室で日焼け止めを塗っていた塁斗を、
「は?何それ女みてぇ。見た目に気ぃ使うヒマあったらその分走り込みでもしとけよ。お前スタミナねぇんだからさ」
そう馬鹿にしたのはβの三年生だ。部内の誰よりも日焼けした肌は練習の証。そう誇っている先輩だった。
「すみません、肌が弱くて日焼けすると赤くなりやすいので……」
「いいよなΩちゃんは。ここが弱いあそこも丈夫じゃないってか弱いアピールできて」
最上級生が相手だ。塁斗ではこれ以上言い返せない。そばで着替えていた俺はその手を止めずに、さり気なく会話に割って入る。
「日焼け止めくらいつけてもいいじゃないっすか。紫外線による蓄積疲労って結構注目されてて、プロでも球団から日焼け止め支給されてたりするんすよ」
先輩が恨みがましい顔でこちらを睨みつける。塁斗を守るためなら部活の縦社会なんて屁でもない。
「知ってるわそんくらい」
「さすが先輩。おすすめのあったら教えてくださいね」
黒々と焼けまくった男に日焼け止めのおすすめを教えてなど、とんでもない皮肉。
先輩は乱暴にロッカーを閉め部室を出て行ってしまった。
塁斗が『上級生にケンカ売って大丈夫ですか?』と不安げに目配せしてくる。
「気にすんな」
日焼け止めは塗り終わっていたようなので、置いてあったキャップをぽすんと雑に被せてやる。目深に被せすぎてツバで目元は見えなかったが、その口の端はほんのりと微笑んでいた。
それでいい。そうやって俺に守られておけ。俺は塁斗の心と身体を守ると約束したから。
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