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第13話「トレンドワードにあの人の名前・・・なんで・・・?」
ピピピピ。
目覚ましアラームの無機質な音が頭上で鳴り、手探りでその音を止める。
まだ眠く、重い体を起こすと、大きな欠伸をしてから愁はベッドから降りた。ぐちゃぐちゃに乱れた髪でぼりぼりと頭を掻きながら、ダルそうにキッチンへ向かうと、まだ覚醒しきっておらずぼんやりとした目つきで冷蔵庫の中を物色する。
「…何もねぇな…。」
冷蔵庫の中には缶ビール2本と使いかけの野菜がちらほら。あとマヨネーズや醤油など、最低限の調味料しか入っていなかった。
愁は、家にいる場合は基本自炊をする。高校生の時から一人暮らしをしているため、凝った物でない限り、意外となんでも作れる。
だが、昼は学食、夜はバイト先のまかないで生活しているため、家で食べることは少ない。昨夜も夜遅くまでバイトだった。その為、スーパーに寄ることはできずに冷蔵庫の中はすっからかんというわけだ。
2Lサイズのペットボトルを取り出し、コップにトクトクと水を注ぐと、それを一気に飲み干して2杯目を注ぐ。水の冷たさでまだ眠っていた脳がしゃきっと一瞬で起きた。
「コンビニ行くか、スーパー行くか…。」
覚醒したばかりの頭でうーん、と悩む。今日は学校もバイトも休みで1日中暇だ。時間はたっぷりとある。
せっかくなら料理でもして、この後瑞樹と電話した時の話題にするのもアリだ。そうと決まれば早速準備。
乱れた髪をくしでサッとといて、顔を洗う。服はどうせ近くのスーパーに行くだけだし、着古した家着のまんまで、スマホと財布を持ったら準備OK。靴を履いて、トントンっと、つま先を床へ打ちあてると、玄関を出た。
時刻はあと少しで十二時。真夏の太陽が愁の肌をじりじりと焼いていく。早くクーラーの部屋に戻りたくて、なるべく日陰を探して歩きつつ、愁は急いでスーパーへと向かった。
愁は浮かれていた。なんせ今日は約束の土曜日。この後家へ帰り、ご飯を食べ、十四時頃になったら瑞樹に電話をかけるつもりでいた。
十四時を選んだのは、朝早かったり夜遅かったりすると、瑞樹の睡眠の妨げになってしまうかもしれない、十四時なら真昼だし寝る可能性が低い時間帯だろう。という愁なりの配慮だ。
るんるんと軽い足取りで買い物を済ませ、家に帰る。
料理をしている最中も電話をかけるのが待ち遠しくて仕方なかった。
時刻は十三時。完成した焼きそばを食べながらBGM代わりにテレビのスイッチを入れ、適当な番組をつける。画面にはお昼の情報バラエティ番組が映し出され、芸能人たちがわいわいと楽しそうに会話をしている。愁は画面に目もくれず、溜まっている友達からのメッセージの返信を済ませ、SNSを開いた。
「え、なんで?」
注目のトレンドワードに“桜庭みずき”が上がっていた。
一瞬、頭にハテナが浮かんだが、“桜庭みずき”に続くトレンドワードに“劇場版青、そして春。”が上がっていたのを見て、昨日から全国上映が開始されたからだと、すぐに理解した。
“桜庭みずき”についての投稿をしている人達の投稿内容を見ようとしたが、やめておいた。
過去の経験上、「ゴーストライターが書いた」だの「一発屋の小説家」だの、それはもう、顔が見えないことをいいことに酷い内容を平気で書き込む人ばかりだからだ。わざわざ自分から嫌な思いをしにいく必要なんてない。愁はスマホを机の上に置き、焼きそばをすすった。
「次の話題はこちら!昨日から全国上映が始まった、劇場版青、そして春!昨日、都内映画館では舞台挨拶が行われたそうで、その舞台挨拶の映像をご用意しております。それではVTRどうぞ!」
最近人気急上昇中と話題の新人アナウンサーがお昼の情報バラエティ番組にぴったりの明るい声でV振りをすれば、ぱっと画面が切り替わった。
「!?」
愁は目を疑った。
愛想の良い笑顔を浮かべ、客席に手を降る豪華キャスト陣の中、一番端っこでにっこりと笑って立っている男の顔に見覚えがあったからだ。
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