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第15話「会いたい」

しつこく鳴るスマホ。画面に表示された名前は ――荒田愁 数分おきになり続ける愁からの電話に、瑞樹はびくびくと怯えながら、頭から布団をかぶっていた。 今日は電話をすると事前に約束をしていた。だからきっとかけてきている。 きっと、そのはず…。 コール音が鳴りやむと、ピコンっと、メッセージが送られてきた音がした。瑞樹はベッドから降り、恐る恐る、少し離れたテーブルの上に置いてあるスマホを覗き見た。 「ヒッ!」 ロック画面に表示された愁からのメッセージを見て、瑞樹は思わず、小さな悲鳴をあげた。 《瑞樹さん、どうして電話でてくれないんですか?声聞いて、話したいことがあるんです。》 瑞樹は察した。この話したいことというのは、この前ファミレスで言っていた“面白い話”のことではないと。 「やっぱり…ニュース見たんだ…。」 ははっ、と、乾いた笑いを浮かべると、再びスマホに着信が入り、ヴーヴーと音を立て振動し始める。ビクッと大きく肩を揺らし、急いでスマホから距離を取ろうとしたが、画面に映し出された名前を見て、瑞樹はほっと、安堵の溜息をついて電話に出た。 「はい、桜庭です。」 「桜庭先生、お疲れ様です!テレビ見ましたか?どの局でもばっちり、先生の顔が放送されてましたよ!」 スマホ越しにハイテンションの河野の声がキンキンと響いてきてうるさい。瑞樹は顔をしかめ、一瞬スマホを耳から離した。 「あー、そうなんですね。ははは。」 電話は楽でいい。表情までも作らなくていいから。声を少し高めにして、笑っている風を装う。こっちは、その各テレビ局の番組で俺の顔が晒されたことで悩んでるんだよ!と、言いたい気持ちはぐっと堪えて。 「SNS見ました?もう大反響ですよ!」 「SNS?」 通話をスピーカーにして、SNSを開いてトレンドワードを確認すると、“桜庭みずき”がランクインしていた。桜庭みずきに関連した投稿を下から上へ何度スライドさせても、終わりの見えない新着投稿に瑞樹は驚いた。 「みんな先生の事、イケメンってネットで大盛り上がりですよ!作戦大成功ですね!」 「はぁ…。」 作戦が上手く行き、鼻高々な様子の河野には少しイラつくが、実際、河野の言う通り作戦は成功したようだ。SNSの通知を切っていたため気づかなかったが、桜庭みずきの公式アカウントのフォロワーは、どっと増えていた。 「あとは新作を完成させるだけです!次作、必ずヒットさせましょうね!」 やる気に満ち溢れた河野の声が暑苦しくて、うんざりする。 適当に相槌を打ち、執筆があるからという理由で、逃げるように通話を切った。椅子に座り、大量にある桜庭みずきについての投稿にサッと目を通す。どれも瑞樹の顔のことばかりで、作品についての感想はほとんどなかった。 ――俺、瑞樹さんの書く文、すげぇ好きです! いつの日か、今書いている新作の冒頭部分を読ませた時に愁が言った言葉が、脳内で、愁の笑顔と一緒に再生される。 あぁ、会いたいなぁ。いつものあの眩しい笑顔で俺を照らしながら、もう一度同じセリフを言ってほしい。そうすればこの、いつ止むのかわからない心の雨だって、すぐに止んで晴天へと変わるのに。 目を閉じれば瞼の裏に、最後に見た、電話することを楽しみにして嬉しそうに笑う愁の顔が浮かんだ。 手の中で、ヴーヴーとスマホが振動する。愁からだ。瑞樹は通話ボタンを押さないまま、“荒田愁”と表示された文字を切なそうな顔で見た。 「ごめんな愁…。約束、守れなくて。」 まだ振動し続けるスマホを、そっと机の上に置くと、瑞樹は執筆部屋へと籠った。

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