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第45話「お前には関係ねぇだろ!!!」
「――さん…み、きさん…みずき、さん…瑞樹さん…。」
愁の声が遠くから聞こえる。なんだかこんな事、前にもあったような気がする。あぁ、きっとまた夢だ。重たい瞼をゆっくり開くと、ぼやけた視界のピントが少しずつ合ってくる。
「瑞樹さん!大丈夫ですか!」
不安そうに顔を歪ませ、焦っている瑞樹の顔が映った。
「愁…。大丈夫だ。ここは夢の中だから。」
「はぁ?何寝ぼけた事言ってるんですか。ここは現実世界です。」
だるい体を起こせば、ズキズキと頭が痛んだ。その痛みのおかげで、愁の言う通りここは夢の中ではないと理解した。
少しずつ、昨日の夜の記憶が蘇る。昨晩、アルコールに溺れるようにひたすら酒を飲み続けながら、狂ったかのように止まることなく小説を書き進めていた。
パソコンではあるものの、書き殴るという表現が合うほど、怒りにまかせて強い力でタイピングしていたのを思い出した。
家にある酒が全てなくなる頃、瑞樹はベロベロに酔っていた。トイレから自室へと戻り、椅子へと歩いている途中で足がもつれ、床に転倒。そのまま意識を飛ばしたかのように眠りについたのだ。
「お前…なんでいるんだよ。」
割れそうなくらいガンガンと痛む頭を押さえながら、酒焼けしたかすかすの声で瑞樹が言った。エントランスのオートロック番号は、来る度にロック解除するのが面倒だった為教えていた。だが、部屋の鍵は持っていないから開けれないはず。
「玄関、鍵閉まってなかったですよ。オートロック付きのマンションとは言えども、どこから不審者が入ってくるかわかんないんですから、もっとちゃんと管理してください。今部屋に入ってきたのが俺じゃなくて、変な人だったらどうするんですか。」
愁の怒った声が二日酔いの頭にガンガン響いて不愉快な気分になる。吐きそうだ。瑞樹は、うー、あー、と言葉にならない呻き声をあげた。
「大体、なんでこんなになるまで飲んだんですか。空の缶は部屋中に放り投げられてあるし。執筆はちゃんと進んでるんですか?上手く書き進めれないから辛くなってお酒に逃げたんですか?」
「…うるさい…。」
「パソコンもつけっぱなしだし…。あ、ちゃんと続き書いてるじゃないですか。」
「うるさい、読むな…。」
「…瑞樹さん、なんでこれバッドエンドになってるんですか…?このストーリーは、キラキラした青春を描いたハッピーエンドの話でしたよね?言葉も全部どろどろした暗い感情ばっかだし…。なんか…桜庭みずき先生らしくないですよ。」
「お前には関係ねぇだろ!!!」
愁の胸倉を掴む瑞樹。カッと見開かれた瑞樹の目は血走っていた。こんなにも狂気に満ちた状態の瑞樹を見るのは初めてだった。
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