47 / 52

第47話「狂ってしまうほどあなたのことが大好きなんです。」

「瑞樹さん、多分、俺の事好きですよ。」 耳元で聞こえる愁の声に、いけないとわかっていながらも瑞樹は安心した。 この声が聞きたかった。この優しい腕に抱きしめられたかった。頭がどれだけ駄目だと反対の声をあげても、体は愁を感じて喜んでいる。 愁の背中に回しかけた手を慌てて引っ込め、愁の胸を押し返して離れようとする。 「嘘だ、こんなに苦しいの恋じゃない…。恋はもっと幸せな気持ちだけに包まれるもので…。」 「瑞樹さん、恋は楽しいだけじゃないんです。苦しくて、辛くて、悩むことばっかりで…。でも、一緒にいたらそんなモヤモヤを晴らしてくれるような存在が、好きな人なんです。」 うっとりと頬をピンク色に染め、愛おしい大切な宝物を見つめるような瞳で愁が瑞樹の顔を見る。 その綺麗な瞳に映っているのは、あの小柄な女の子なのだろうか。それとも桜庭みずきなのだろうか。もし俺が映っていないのならどうやったらその瞳に映ることができるんだろうか。 自分以外を映すくらいなら、その綺麗な瞳を取ってしまって誰にも見つからない場所へ大切にしまいたい。 きらきらと宝石のように輝く愁の瞳に触れたくて、人差し指の先でそっと愁の頬骨に触れる。 「愁は誰が好きなんだ…?」 愁は目をぱちくりさせた。 「俺、何回も言ってますよね。瑞樹さんが好きだって。」 「お前が好きなのは桜庭みずきの俺だろ。」 顔をしかめた愁は、意味がわからない。と言っているようだった。 「桜庭みずきと青山瑞樹は同一人物じゃないですか。てゆーか、もしかして俺が瑞樹さんの事どんだけ好きか伝わってないんですか!?」 瑞樹の両肩を掴み、前後へぶんぶんと容赦なく揺さぶりながら喚く愁。二日酔いの体にはその振動と声量が悪影響を及ぼし再び気分が悪くなる。「うぇ…ぎもぢわる…。」と口を押える瑞樹。一呼吸置いてから、自分の声が頭に響かない程度の声量で話す。 「だってお前、桜庭みずきしか褒めないじゃん…。俺の好きなところは“素敵な小説書くところ”だって…。」 「へ?そうだっけ?」 首を傾げて素っ頓狂な声を出した愁にイラっとする。どれだけその事で悩み苦しんだと思っているんだ。 それなのに、まるで自分のことじゃない。自分には関係ないみたいな顔をしているのが心底腹立たしい。 「もういい!」と声を荒げ、立ち上がろうとした瑞樹に愁は必死に抱き着いて阻止した。 「待って瑞樹さん!お願い!」 「やめろ!離せ!くっつくな!離せって!」 「わかった!俺、瑞樹さんの好きなところ全部言います!なので許してください!」 「うるさいっ!許すとか許さないとか、そういうんじゃないんだよ!」 「瑞樹さんの好きなところ!かっこいい、かわいい、優しい、顔がイケメン、努力家、悩ましい表情が綺麗、俺が辛い時は傍にいてくれる、料理美味しいって言ってくれる、ほぼ言動が五歳児な、無自覚で俺の事煽ってくる、恋愛知識0なところ。」 「待て待て待て!お前、後半ほとんどディスってるだろ!」 「ディスってないです!本当に好きなところです!」 「だとしたらお前やっぱ変だぞ!?恋愛観狂ってるって。」 「そうです、俺は狂ってます。でも、俺をそうさせたのは瑞樹さん、あなたなんですよ。俺は、可笑しくなるほど青山瑞樹、あなたのことが大好きなんです。」 愁の手が瑞樹の両頬を包み込む。恋をしている愁の甘い瞳には顔を赤く染めた瑞樹が反射して映っていた。

ともだちにシェアしよう!