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第51話「俺も会いたいに決まってるじゃないですか」

「はい。ホットココアです。」 「ありがとう。」 マグカップを二つ、こたつの上にことんっと置くと、愁もこたつの中へ入る。こたつの中でとんっと足があたると、瑞樹はもっとくっつきたくて愁の足に自分の足を絡めた。 「で、どうしたんですか。こんな時間に。」 「…これ。」 抱えていたパソコンをこたつの上に置く。愁はパソコンを見て、首を傾げた。 「小説、書き終わったんだよ。愁に一番最初に読んでほしくて持ってきた。」 愁は目をぱちくりとさせながら瑞樹の顔を見た。 「ほんとですか!?でも、別にこんな時間に持ってこなくても…。明日でも…いったぁ!!ちょっ、こたつの中で蹴らないでくださいよ!」 「会いたかったんだよ愁に!これを読んで喜ぶ愁の顔が早く見たかったっ!…それなのに、全然喜んでくれないし、なんか迷惑っぽいし…。なんだよ、会いたいって思ってるの俺だけなのかよ、ばか愁…。」 痛くないほどの強さで、何度も愁の足を蹴っていると、次は瑞樹の足が愁の足によって拘束する形で絡められる。 「迷惑なんかじゃないし、俺も瑞樹さんに会いたいに決まってるじゃないですか。ドアののぞき穴から見た時、外に瑞樹さんが立ってるの見て俺、超嬉しかったんですから。でも、こんな時間にそんな恰好で出歩くのは心配するんでやめてください。」 まだ冷たい瑞樹の手を、温めるように包み込んでぎゅっと握る。瑞樹はこくりと、縦に首を振った。 「あ、それと、時間帯によってさすがに来る時は連絡ください。こんな時間にインターホン鳴るとか普通に怖いんで…。俺、まじで幽霊か変質者かと思って超びびりました…。」 「あ、だからフライパン持ってたのか。」 相手が人間ならフライパンでぶん殴ればなんとかなる可能性もあるが、もし幽霊だった場合、透けて当たらないだろうから、フライパンの意味はあるんだろうか。と思ったが、まぁ、実際は俺だったわけだし、いっか。と思い、口には出さないで置いた。 「なぁ。早く原稿読んでくれ。」 パソコンの電源を入れ、いそいそと完成した原稿を開くと、ずいっとパソコンを愁の前に突き出す。わくわくと期待の眼差しを向ける瑞樹の方を見ると、愁は微笑みながら両手を広げた。 「その前に。こっちおいで。」 まるで、甘い蜜をたっぷりと含んだ花に蝶が誘われて引き寄せられるかのように、愁の甘い声に瑞樹は誘われ、もそもそと動いて愁の腕の中へと入っていく。 成人男性二人が横並びになるにはこたつのサイズが小さすぎるぎゅうぎゅうにくっつき、無理矢理入っている状態だ。 「どう考えても狭すぎだろ。無理がある!」 文句を垂れながらも、愁の腕の中にすっぽりはまり大人しく抱きしめられている瑞樹。離れようとしないのは、愁の腕の中にはとろけるほど甘ったるい愛という名の蜜が溢れるほどたっぷりあるから。 瑞樹の数か月の頑張りを労わるように、愁はこれ以上ないくらい優しく瑞樹の髪を撫でる。 「瑞樹さん、お疲れ様でした。」 ちゅっと触れるだけのキスを唇に落とす。甘ったるい愛の蜜に溺れた瑞樹が、腕の中でふにゃりと幸せそうに笑った。 それから四時間後。窓の外が薄っすらと明るくなり始めた頃に、ようやく愁は瑞樹の新作を読み終えた。 「瑞樹さん、これ――」 感想を伝えようと隣を見ると、いつの間にか瑞樹は眠っていたらしい。こたつに入ったまま床に転がって、スースーと規則正しい寝息を立てていた。 パソコンを閉じてから、瑞樹と向かい合う形で愁も床に寝転がる。瑞樹の寝顔は美しかった。綺麗だなぁ、と思いながら、瑞樹の白い頬にそっと手を添える。 「瑞樹さん、素敵な作品でした。やっぱり桜庭みずきは最高ですね。今回は絶対大丈夫ですよ。だって、瑞樹さんはもう、人を好きになる素敵な心を持ってるんですから。」 瑞樹の額にキスをしてから、愁も瞼を閉じた。

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