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第2話「生と死の狭間の世界」

さっきまでの頭痛はどこへ行ったんだ。頭が軽い。というか、肩こりも消えている。嘘のように体が軽い。今なら飛べそうな気がする。就職して数年間ずっと悩まされてきた体の痛みとだるさが消えたことが嬉しくて肩や腕をぐるぐると回して嬉しそうにへへっと笑う。 「って、いや違ぇだろ!ここどこだよ!!!!!」  頭を抱え、混乱しながら辺りを見渡す。 360度ぐるりと全体を見渡してもただ真っ白い世界が続いているだけ。さっきまで俺は、家に帰っている途中だった。で、コンビニに寄ってケーキと晩飯買って、あと少しで家に着くところで…。 それで…それで…。 「それで…どうなったんだっけ…。」 必死に記憶を辿るが、そこから先が思い出せない。まるで、誰かに記憶を消されたかのような。バツンッと、そこで切られているような感覚だ。冷や汗が垂れる。意味の分からないこの状況が怖い。そして、どこまでも無限に続いているかのような白色が余計に俺の恐怖心を煽る。 夢…なのか?家に帰った記憶がないということは、もしかしたら疲れ果てて家に着く前に道で倒れて寝ているのかもしれない。だとしたら、早く起きて帰らなくちゃ。バシンッと、自分の頬を勢いよく叩いてみる。 「痛くない…。ほら、やっぱ夢だ。これは夢なんだ。じゃあ早く起きねぇと――」 「なーに寝ぼけたこと言ってるピプ!これは夢じゃなくて、現実ピプ!」 「は?」 変な声が天から降ってきた次の瞬間、ポンッと、可愛い効果音が鳴ると同時に、俺の目の前に見た事もない変な黄色の生き物が現れた。イラストでよくあるたぬきみたいな丸いフォルム…。たぬき…なのか?いや、でもしっぽは大きくてリスみたいだし…。 いや、てゆーか、どっからどうみてもタヌキでもリスでもないだろ!なんだこの変な得体の知れない生き物は! 「き…気持ち悪っ!!!!」 俺の目の前でふよふよと宙を浮いている変な生き物から距離を取ろうと俺は後ずさった。 「気持ち悪いとは失礼な!誰がどう見ても、ピプは超ベリーベリーキュートなピプリットちゃんピプ!」 「ぴ、ぴぷ…?え、なんて?」 「ピプリット!!親しみを込めてピプって呼んでもいいピプよ。」 短い腕を組んで、ふふんっと得意げな顔をする変な生き物。 「は、はぁ…。つーか、俺、どんな夢見てんだよ…。まじで仕事で疲れすぎてんだろぉ…。」 「だーかーらー!これは夢じゃないピプ!現実逃避もいい加減にするピプ。」 「いやいや、どう考えてもこれが現実ってありえないだろ。変な生き物は喋ってるし、世界は真っ白だし。ここどこだよ。」 「ここは、生と死の狭間の世界ピプ。」 「生と死の狭間の世界…?」 おいおい、まじで俺どんな夢見てんの。なんかそんなドラマ最近見たっけ?何に影響されてんだ。 「そうピプ。つまり幸坂大我。お前は死んだんだピプ。」 ……は?死んだ?俺が?何言い始めてんだこいつ。たとえ夢の中でも俺が死んだだなんて縁起でもない。まったく話を信じていない俺の様子を見て、変な生き物は面倒くさそうな顔で溜息をついた。 「はぁ…。まぁ信じれないのも無理ないとは思うピプけど…。説明が面倒ピプ。とりあえずこれを見れば自分が死んだってわかるピプ?」 どこから取り出したのか、変な生き物はテレビのリモコンのようなものを取り出すと、何もない宙に向けてポチっとボタンを押した。 すると、ちょうど俺の目線と同じ高さに映像が映し出された。俺はその映像に映る人物を見て、驚いて目を見開いた。映像に映っていた人物。それは、頭から大量の血を流しながら、曲がってはいけない方向へぐにゃりと足を曲げてぐったりと無残な姿で道路に横たわっている俺だった。 倒れている俺から少し離れた場所にどんどん人が集まっているのが画面の端に映って見える。 「な…なんだよ、これ…。」 「この映像は今、現世で実際起きている状況を映し出しているピプ。ほら、倒れてる大我の近くでうろうろしながら電話しているおじさんがいるのが見えるピプ?この人が大我を車で轢いて殺した犯人ピプ。」 淡々と説明をする変な生き物。未だにこの状況に理解が追いついていない俺は、言葉の発し方も忘れたかのように、ただただ映像を見つめることしかできなかった。 そうしている間にも、映像の中にいる俺の頭からはドクドクと大量の血が流れていて、道路に血の水たまりが出来始めていた。 俺は本当に…死んだ、のか?呼吸がどんどん浅くなっていく。まるで過呼吸のように喉がヒューヒューと鳴る。気持ちを落ち着かせるために、胸に手を当てゆっくり上下に動かして擦っていると、俺は違和感に気づいた。 「心臓が…動いて、ない…?」

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