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第3話「はぁ!?魔法少女になれ!?」

たらりと背中に冷や汗が流れる。嘘だ、そんなわけない。だって、俺はちゃんとここに存在してて、動いてるし喋ってるし、だから俺が死んだなんてありえない。これは夢に決まっている。 「ゆ、夢だ…。死んでるなんて、そんな、ありえないだろ。絶対嘘だ、俺は夢を見てるんだ…。」 「何度も言わせるなピプ。これは夢じゃない、現実ピプ。自分が死んだことをちゃんと受け入れるピプ。」 「俺は死んでなんかねぇ!さっきまで、家に帰る途中で、誕生日だからコンビニでケーキ買って、それで、母さんに連絡返して、それで…それで…。」 「それで、後ろから車に轢かれたピプ。」 「嘘だ!」 「嘘だと思うなら、轢かれた瞬間の映像みるピプ?」  リモコンを操作すると、画面の映像がぱっと変わった。 俺は慌てて画面から目を逸らそうとした。自分が車に轢かれる映像なんて、当たり前に見たくない。それに、その映像を見てしまえば、自分が死んでいるということを、もう認めざるを得なくなってしまう。この動かない心臓が何よりも自分は死んでいるのだという証拠だけど、トドメを刺されたくなかった。 だが、俺が画面から目を逸らす前に、画面に映る俺は凄まじいスピードで後方からやってきた車に轢かれ、宙を舞い、次の瞬間にはさっき見た映像と同じ、血を流しながら道路に横たわる俺が映し出された。その一連の流れは、本当に一瞬の出来事で俺は小さく「えっ…。」と声をあげた。 いつもの道をいつもと何も変わらぬ様子で歩いていただけなのに、たった一瞬で俺が積み上げてきた28年間の命が終わったのだ。俺の人生、何だったんだろうか。真っ白になった頭でぼんやりと考える。 「居眠り運転だったみたいピプよ。7連勤だったらしいピプ。」  ドクドクと俺の頭から流れる血の映像をじっと見つめながら、変な生き物が言った。俺はかっと頭に血がのぼった。7連勤?それで居眠り運転で人を轢き殺しました?ふざけんじゃねぇ…。何が…何が…。 「何が7連勤で居眠り運転だぁ!?コノヤロー!こちとら毎日残業付き13連勤なんだよ!くそが!!7連勤ごときで何社畜ぶってんだよ、ゴミが!そうだ、そうだよ…!俺の人生、くそ社畜ライフで終わらすわけにはいかねぇって、転職してやるって決めたばっかだったんだよ!それなのに、死んだ…?はぁ!?ふざけんなよ!!返せよ俺の人生!」 怒り叫んだって俺を轢いた奴にこの声は聞こえないし、変な生き物を鷲掴んで激しく前後に振って必死に抗議したって生き返るわけない。そんなことわかっていても、怒りを我慢するだなんてできなかった。 「や、やめろピプ!ピプのこと雑に扱うなピプ!…まったく、やーっと自分が死んだって事を受け入れることができたピプ?」 「…。」 「黙ってるってことは認めたって事ピプね。よし、それじゃああっけなく死んじゃって可哀そうな大我に生き返る方法を1つだけ教えちゃうピプ。」 短い腕を腰に当て、ふんぞり返るように、えっへんっと得意げな顔をする変な生き物。 ……は?今生き返る方法って言った? 耳を疑ったが、変な生き物の様子を見る限り聞き間違えではないらしい。にまにま笑っている顔がさっきまで死んだことを嘆いていた俺を小馬鹿にしているような気がしてむかつく。変にもったいぶってなかなか生き返る方法を言わない変な生き物にしびれを切らし、俺が強い口調で急かすと、眉をわざとらしく八の字に下げて、やれやれ、仕方ないなぁ。といった表情を作って見せた。 「大我、魔法少女になれピプ。」 ……え?あ、えーっと…んん?俺の聞き間違い、か?魔法少女とかなんとか聞こえた気がしたんだけど…。 「あー…えっと、ご、ごめん。ちょっとよく聞こえなくて。」 「だーかーらー!魔法少女になるんだピプ!」 「魔法…しょ、う…じょぉおお!?はあああ!?何ふざけたこと言ってんだお前!?」 「ふざけてないピプ。本気ピプ。」 空中を泳ぐかのように足をばたばたさせる変な生き物。いや、本気で言ってる方がかなりやばいんだが。

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