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第7話「必殺技はラブリーマジカルハリケーン」

モンスター目掛けて走る。地面を一蹴りしただけで、ぐんっとまるで何かに引っ張られているかのような勢いで前へと進んだ。 普通の人間とは思えないスピード…これも魔法少女の力ってやつか。あっという間にモンスターの元へと辿り着き、ジャンプするように軽く地面を蹴ると、まるで空を飛んでいるかのようにふわりと宙へ浮かんで3mも高いモンスターの顔の目の前まで来た。 回し蹴りを顔面にお見舞いしてやると、モンスターはその場に倒れ悶絶する。なんだろう、すごくスカッとする。ストレス解消法にいいかもしれない。ノッてきた俺は、倒れているモンスターに追い打ちをかけるごとく、殴る蹴るなどして、日頃のストレスを思う存分モンスターにぶつける。 「うわぁー、これまじでスカッとするな。ふぃー、最高!」 モンスターをサンドバッグ状態でボコボコにしてご機嫌になっている俺を見て、若干引き気味のピプが視界の端に映った。 「つーか、このモンスターどんだけボコボコにしても消えてくんないんだけど。どうすればいいの?」 「とどめは魔法じゃないとさせないピプ。魔法ばかり使っていると体力の消耗が激しいから最初は今みたいな物理的攻撃で相手の体力を削るのが作戦的にはいいピプけど…そのモンスターは早く魔法でとどめをさしてあげた方がよさそうピプ…。もう泣いちゃってるピプから…。」 ピプにそう言われてモンスターを見ると泣きながら「タスケ…テ…」と言っていた。まるで俺の方が極悪人のような気がして、敵ではあるが俺はモンスターに「ごめんな。」と、謝った。 「とどめの魔法の言葉は『ラブリーマジカルハリケーン』ピプ。さぁ!ステッキを振って叫ぶピプ!」 うえ…またそういう、い・か・に・も!なワードを連ねた言葉かよ…。まぁいいや、それを言えば帰って寝れるわけだし。俺はステッキをぶんっとモンスター目掛けて上から下へと振り下ろしながら魔法の言葉を叫んだ。 「ラブリーマジカルハリケーン!!」 ステッキからピンクゴールドのビームが凄まじい勢いでモンスター目掛けて放たれる。俺が放ったそのビームはモンスターに貫通し、ぐぁあ…と苦しそうな声をあげてモンスターは消えた。 空からキラキラと光る滴が雨のように街に降り注ぐ。綺麗、まるでダイヤモンドダストみたいだ。その光の雨は、瞬く間に戦闘で壊れた街を修復していった。 「すげぇな…。」 今俺の目の前で起こっていることがあまりにも非現実的すぎて、他人事のようにぽつりと呟いた。 「こうして今まで何十年、何百年と、歴代の魔法少女が地球を守ってきたピプ。で、その役割を次に果たすのは大我。君ピプ。」 腕を組み、偉そうに威張ってそういうピプ。 いや、そう言われましても…正直まだ自分の身に起きてることに頭が追いついていない部分があって…。 右手に握っているステッキを数秒間じっと見つめると、俺はぎゅっとステッキを強く握り直した。何が何やら未だ理解できていないけど、俺は魔法少女になったんだ。それはさっきの戦闘中に理解した。細かいことはわかんないし考えても仕方ない。とにかく俺は生きたい。その為に戦う。ただそれだけだ。 「……あぁ、そうだな。守ってやるよ。この世界も、俺の命と夢のホワイト企業再就職も…!」 こうして俺は、本業サラリーマン、副業魔法少女、という嘘みたいな二重生活が始まった。

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