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第9話「過労で死ぬぞ…」

ピロリロリーン ピロリロリーン 俺のバッグの中でステッキが鳴った。 「幸坂クンっ!!!」と課長の怒鳴る声が再びフロアに響いたが、モンスターを倒した後、ステッキが鳴る前の瞬間まで時間を巻き戻すことができる。 俺は、「すみません!」と言いながら何度もぺこぺこと頭を下げながら、バッグを持ってダッシュで部屋を出て人気の少ない非常階段まで走った。記憶を消せれると言っても、流石に大勢いる前で魔法少女に変身するのは抵抗がある。 ステッキを上に掲げ、お決まりの合言葉を叫べば、可愛い衣装に変身して、モンスターの元へと転送された。そして、今に至るというわけだ。 ちょうど課長からのパワハラを受けた俺にとっては、かなりのグッドタイミングでモンスターが現れてくれた。超ラッキーだ。さっき我慢した怒りをモンスターへぶつけまくる。モンスターって意外と空気読めるところもあるんだな。と、モンスターをぶん殴りながら、そんなことを思う。 「た、大我…あの、そろそろとどめの魔法を言った方がいいんじゃないかピプ…?」 俺の周りでふよふよと浮かびながらピプが言った。 「いや、俺の怒りはこんなもんじゃ治まりきらねぇ。もっとぼっこぼこでぐっちゃぐちゃにしてやんねぇと…いっひっひっひ…。」 「これじゃあどっちが悪者かわからないピプ!いいから早くとどめをさすピプ!もうピプは可哀そうなモンスターを見てられないピプ!残酷すぎるピプ!」 手で顔を覆い、わぁわぁと喚くピプ。お前、どっちの味方だよ。モンスターを倒すのがお前の目的だろ? 「ったく、わかったよ。はぁ…。ラブリーマジカルハリケーン!!」 ステッキからピンクゴールドのビームが放たれると、モンスターは光となって消えていった。消える瞬間「アリガトウ」と聞こえたのは気のせいだろうか。 空から降るダイヤモンドダストのような光が、破壊された街を綺麗に直していく。最初はあんなに嫌がっていた恥ずかしい合言葉も、28歳の男性が着るにしてはイかれた可愛すぎる衣装も、戦闘を重ねるごとに当たり前になったな。今では恥ずかしさなんて微塵もない。 むしろ、日々のストレスをモンスターにぶつけれることが俺にとって良いストレス解消法となっている。うん、いい副業だ。 「…はぁ、戻りたくねぇけど、仕事に戻るか…。今日も残業…あー、死にてぇ…。いや、もう半分死んでるんだけどさ。…ははっ。」 元通りになった街を自社のビルの屋上から眺め、乾いた声で笑う。そっと心臓に手を当てれば今日も仮の心臓がドクンドクンとちゃんと機能している。本物の命とホワイト企業再就職の為に今はとにかく我慢だ…。俺は深く深呼吸をすると、仕事へと戻った。   魔法少女とサラリーマンの二足のわらじ生活にはもうすっかり慣れてしまった。 仕事中にモンスターが現れたとしても、今のように颯爽と魔法少女に変身してモンスターを倒し、何事もなかったかのように仕事に戻り、何事もなかったかのように残業をして日付が変わる時間帯に帰路につく。だが、時々イレギュラーなパターンもあり、今日がそのイレギュラーの日のようだ。 23時頃、ようやく仕事が終わり、俺は会社を出て疲れ切った重たい体を半ば引きずるような形で帰路へとついた。今日はまだ終電前に仕事が終わったからいい方だ。電車で家の最寄り駅まで行き、そこから徒歩15分ほどの自宅へと歩いている途中、鞄の中でステッキのけたたましい音が鳴った。 「嘘だろ…。昼にモンスターでたんだからもう今日はいいだろ…。ふざけんなよ…。」 今すぐにベッドへダイブしたいくらい疲れているというのに、疲労困憊状態の体に鞭を打って今からモンスターを倒さないといけないのか。 モンスターにやられる前に、過労死で死にそうだ。鞄をぎゅっと両手で強く抱きしめて、俺はその場に崩れ落ちるかのようにうずくまる。 もうまじで、今日は勘弁してくれ…。 目を閉じれば、この状態でも即寝れそうなくらい瞼は重い。もういいや…。ここで寝ようかな…。睡魔のせいで正常な判断ができなくなった俺は、アスファルトの上に寝そべろうとした瞬間だった。 ドゴーンッと何かが爆発するような音が近くでした。俺はあまりの音の大きさに驚いて、閉じかけてた瞼を開いた。見上げれば。数メートル先にモンスターがいて、口から火を噴いて辺り一面、火の海にさせていた。 「まじか…あぁ…めんどくせぇ…。」 ぼりぼりと掻きむしるように頭を掻く。乱暴な手つきでバッグを開けるとピプがバッグの中からひょこっと顔を出した。 「何してるピプか!早く変身するピプ!」 「わかってるよ!今しようとしてたんだ!」 ステッキを取り出して、天高く掲げる。こんな雑魚、とっとと片付けて早く帰って寝てやる!

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