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第10話「魔王降臨!」

「ラブリー!キューティー!メタモルフォーゼ!!…煌めくスマイル、溢れるキュート、ラブリーハートをあなたにギヴユー!魔法少女キュティプシー!睡眠の邪魔をする奴は、俺が全員ぶっ殺す!!」 「おいっ、変な合言葉を追加するなピプ!」 短い手足をジタバタさせて怒るピプは放っておいて、俺は変身するなりすぐにモンスターの元へと素っ飛んでいき、その助走を利用して、飛び蹴りをかます。 睡眠を邪魔されたことに対しての怒りに任せて、続けて連発でパンチを入れればモンスターはすぐにひるんだ。いつもならもっとボコボコにしてやるところだが、今日は1秒でも早く片付けたい。ステッキをモンスターの頭目掛けて上から下へ振り下ろした。 「ラブリーマジカルハリケーン!!」 まったく、あと何体こんな雑魚たちを倒せばいいんだ。 何百体と雑魚を倒したところで、魔王とやらを倒さなければ魔法少女としての役目を果たしたことにはならない。 つまり、俺の願いは一生叶わないというわけだ。もっと効率よく、手っ取り早く役目を果たせれる方法はないのだろうか。敵陣に乗り込むとか、それくらい大胆なことをした方がいい気がする。 光の雨を浴びて、焼け野原になっていた街が元通りになっていくのをぼんやりと見ながら、半分眠りかけている脳で考えていた。あぁ、そうだ。よく考えてみれば、俺が魔法少女の変身を解いたら時間が動き出すけど、俺が変身を解かなければ時間は止まったまま。 つまり、この姿のまま家に変えれば少しでも長く眠ることができるじゃないか。なんて名案なんだ!地面に転がっている仕事用のバッグを手に持てば、魔法少女の格好のまま、家へと歩き始める。 「大我、早く変身解くピプ。もう終わったピプよ?」 「あぁ、家に帰ったらな。時間が止まっている間に家に帰れば、無駄な移動時間が省けて少しでも睡眠に時間があてられるだろ?」 「私利私欲のために魔法少女の力を使うのは違反ピプ!」 「はぁ?私利私欲だぁ?違ぇーよ。俺が睡眠を十分にとれていないことによって、明日モンスターが出た時、寝不足のせいで本領発揮できずにやられたらどうするんだよ。この行為は、明日の地球の平和の為でもあるんだよ。」 「そういう減らず口だけは達者ピプね…。それをあの課長の前でも出したらいいピプ。」 うぐ…平気な顔して痛いところをついてくる。 言い負かされたくない俺は、ピプに向かって「お前なぁ!」と言った。が、その続きは、首元に突き付けられた剣で強制的に止められた。 何が起こってるのか、俺はまったく状況が掴めないでいた。状況把握するまで5秒かかった。どうやら俺は、敵に背後を取られたらしい。 「君が新しい魔法少女かい?僕の大切な仲間達を酷くいたぶりつける、それはそれは悪魔のような魔法少女だって、有名だよ。」 くすりと小さく笑う笑い方がいかにも悪役って感じだ。どうしよう、このままでは殺されてしまう。どうにかしてこの状況から抜け出さないといけない。 必死に頭を回転させている間にも剣は俺の首をすっぱり真っ二つに切り裂こうと、じりじり迫ってくる。 「ふーん、前の子はツインテールだったけど、今度はショートヘアーか。僕はどんな子でも好きだよ。大丈夫、僕は女の子を傷つけるのは趣味じゃないから僕の手では殺しなんてしないよ。…ねぇ、こっち向いて。」    耳元で響く低く甘ったるい男の声に俺はゾッとした。なんていう声出してんだ。女を口説くような声と発言が心底気持ち悪い。ぶわっと全身に鳥肌を立てていると、男は俺の顎を持ち、ぐいっと無理矢理自分の方へと向かせた。あと数センチでお互いの唇が触れ合う距離。ばちっと目線が合うと、男は目を見開き、驚いた顔をした。 「お、男っ!?」 慌てて俺から離れると、引きつった顔をした。いや、その顔をしたいのは俺の方なんだけど。どこをどうみたら俺が女に見えるんだよ。男に口説かれかけた俺の身にもなってほしい。 「ははーん、残念だったピプね。男を口説けるもんなら口説いてみるピプ!ノア・ブライアー・リース!」 ビシッと男を指さし、ドヤ顔のピプ。どうやらこの男のことをピプは知っているらしい。小さい声でピプに耳打ちをした。 「こいつ誰だよ。なんで時間が止まってんのにこいつは動いてんの?」 「この男こそ、大我が倒すべき相手。エビルディ星の魔王、ノア・ブライアー・リース、ピプ!」 「の、のあ、ぶらい…?」 日本人の俺には馴染みのないカタカナが羅列した海外っぽい長い名前に混乱する。 「ノア・ブライアー・リース。『ノア』と呼んでくれて結構だ。」 真っ黒いマントをバサッと鳥の羽のように広げ、お高くとまった顔をする。こいつが、あの魔王か。なんて好都合だ。 ちょうど、もっと効率よく役目を果たせれないかと考えていたところだった。敵地まで乗り込むにはどうしたらいいのかを考えなければと思っていたが、敵側からやられに来てくれるだなんて、手間が省けた。 「くっくっくっく…。ひゃーっはっはっはっは!」 「た、大我!?ど、どうしちゃったピプ?仕事のしすぎてついに壊れちゃったピプ!?」 「その笑い方…。噂通り本当に悪魔みたいな魔法少女だね。」 やれやれ、と呆れた仕草をするノア。勝手に言ってろ。俺は今ここで、お前を倒して念願のホワイト企業再就職を叶えるんだ! 「待ってろ、ホワイト企業!俺のまったりスローライフー!!!!」 勢いよくノアに殴り掛かれば、さらりと交わされる。 その後も殴っても蹴っても、簡単に交わされたり防御されたり…。魔王を名乗るだけある。今までのモンスターは簡単に倒せれていたのに、今回ばかりは一筋縄じゃいかなそうだ。

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