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第12話「強引なキスとプロポーズ」
急いでノアから距離を取ろうと顔をあげると、まるで獲物を捕らえた狼のようなぎらりとした鋭い目つきのノアとばちっと目が合った。
だめだ、間に合わない。次こそ殺される――!!
反射的にぎゅっと両目を固く瞑り、全身に力を入れる。
死ぬ寸前に走馬灯を見るというのは本当らしくて、瞼の裏に俺の28年間の人生が凄まじい勢いで流れていく。
小学生の体育の時間、ペアになるの毎回先生とだったな…。中学生の修学旅行の班決めで、4人グループを作るってなった時、いつもつるんでる奴らが俺合わせて5人だったから俺がハブられたな…。
高校生の時、友達みんな2年になった途端彼女作りやがって、俺いつも1人だったな…。大学生の時、初めてできた彼女に4股されてるのが発覚して、全彼氏が大集結して大修羅場になったな…。
……って俺の人生ずっとくそじゃねぇかよ!!!自分の人生があまりにも惨めすぎて、叫び声をあげようとした瞬間だった。
唇に何か柔らかいものが、あたった。それは少し乱暴で、『あたる』というよりは、強引に押し付けるような、俺の唇を食いちぎるかのような勢いで…。俺は薄っすら目を開けた。
「んんっ!!!???っはぁ!おまっ、おまえっ!?な、なな何してやがんだっ!っんぐ、やめっ、んんーーーーっ!!!!」
信じたくはないが、俺はノアに強引にキスをされていたのだ。
ノアの胸板を強い力で押してじたばた暴れて抵抗するが、後頭部と腰に手を回されてがっちり固定された。身動き取れない状態にすると、俺の必死に抵抗を無視して、ノアは自分の唇を俺の唇に再び押し当てる。ぎゅっと唇に力を入れて固く閉じている俺の口をこじ開けるかのように、ノアの舌は俺の口内に入ろうとする。
こいつ、正気かよ!?まじで気持ち悪い、無理だって!!これもこいつの能力?とかいうやつなのか?わかんねぇけどまじで舌は無理!!
俺は固く閉じた口を開く素振りは1ミリも見せていないのに、ノアはまだ諦めていないらしく、チュッとリップ音をたてて何度もキスをしながら、舌で俺の口をこじ開けようとし続ける。ノアの指が俺の耳をねっとりとした厭らしい手つきで撫でた。
「ひぁっ!」
くすぐったくて、全身にぶわっと鳥肌をたたせて思わず上擦った声を出してしまった。
その一瞬の隙をノアは見逃さなかった。数ミリ開いた俺の口の隙間から、ぬるりとノアの舌が入ってきた。カッと目を見開きはしたが、驚きすぎて俺は声も出なかった。ノアの舌が俺の口内で好き勝手に動き回る。俺の舌に絡むように動いたり、上あごや舌の裏側まで、俺の口内全てを舐めるように動く。
「んぅっ…やめっ…はぁっ…。」
気持ち悪い。気持ち悪いはずなのに、なんだこの頭がぽわぽわした感覚は。
頭じゃこの状況はかなりやばいということは理解しているのに、酸欠のせいか頭がくらくらして力も上手く入らなくなっていく。涙でじんわりと視界が滲む。
なんだこれ、意味わかんねぇ。脳が8割、正常に機能しなくなってきたところで、ノアはゆっくりと唇を離した。滲んだ視界にドアップのノアの顔が映る。頬をピンクに染め、琥珀色の瞳をきらきらと輝かせながらまるで恋する乙女のようなうっとりとした顔でノアは俺の顔を見つめている。
「大我。僕と結婚してください。」
目を細め、にっこりと王子様スマイルを見せるノア。
……ん?今なんて?
「え…?あ、え?なんて?」
「だから、僕と結婚してほしいんだ。ほら、さっき契約のキスも交わしたことだし。既に僕達は夫婦ってことだよ。よろしくね、愛しのマイハニー。」
チュッと触れるだけのキスを落とすノア。いや…いやいやいやいや!!!!
「はあああああっ!!!!???ふざけんなよこのキザ野郎ーーー!!!!」
俺はノアにアッパーを食らわして、変身を解くとその場から急いで走って逃げた。
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