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第14話「想いを受け取ってほしい」

時刻は22時。今日は少し早く残業を終えることが出来た。それなのに、俺の気分はモヤモヤしていてどん底のままだ。いつもなら早く上がれた日は気分も足取りも軽いのに。 何故こんなに気持ちが重いのか。その理由はわかっている。あぁ、あの顔も声も思い出しただけで頭痛が酷くなる。考えるのはやめよう。そうだ、今日はちょっとお高めなビールでも買って自分を労わろうかな。なんて思い、コンビニに向かっている途中だった。 ピロリロリーン ピロリロリーン 最悪だ。もう、モンスターと戦う元気なんて、俺には残ってないぞ。ぐったりと頭を垂れ、肩にくっついている脱力した両腕がぶらーんと宙でぶらぶらと揺れる。指の第一関節に引っ掛けるようにして持っている鞄の中から、けたたましい音で鳴り続けるステッキを持ったピプが現れた。 「大我!早く変身するピプ!」  わかってます、わかってますとも!わかってるけど俺だって無理な時があって、それが今なわけで!・・・なんて言っても、地球の平和を守れるのは魔法少女の俺しかいないわけで・・・。そうだけど、そうなんだけど・・・。 「・・・今日休んじゃダメ・・・?」 「はああ!!??何ふざけた事言ってるピプかぁ~!?」 ですよねー。 はぁーっと、長めのため息をオーバーにつくと、俺は魔法少女に変身した。街で暴れているモンスターなんて正直どうでもいい。あんな雑魚、一瞬でボコボコにできるし。どうってことない。俺が今日、どうしても変身したくないわけは、別にあって・・・。 「あぁ、もう~~~。ほらぁ、やっぱりじゃ~~~ん・・・!!!」 変身後、モンスターが暴れている場所へ転送されてすぐ、俺はガシガシと頭を掻きむしり、その場に項垂れるようにしゃがみこんだ。 「大我、今朝は申し訳なかった。出勤前の忙しい時間に押しかけるなんて、僕の配慮が足りてなかったよね。でも、ここなら時間も止まってるし、ゆっくり話が出来るだろう?僕は君にちゃんと気持ちを伝えたいんだ。」 赤い薔薇の花束を抱えたノアがゆっくりこちらへ歩いてくる。ノアの少し離れた後ろではモンスターが大暴れしているのが見える。 「お前の相手してる暇はねぇんだよ。俺はさっさとあのモンスターを倒して家に帰って寝るんだ。」 地面を力強く蹴り、スピードを上げてノアの横を通り過ぎる。 「そうはさせないよ。」 ぐんっと後ろに強い力で引っ張られて、体勢を崩した俺は、体格差のせいで、ノアの腕の中にすっぽりと収まってしまう。ぎゅうっと俺を抱きしめる力を強めるノア。やめろ、と抵抗してもびくともしないくらい強い力なのに、優しくて、大切なものを包み込んでいるかのような抱きしめ方に俺はぞわっと鳥肌を立てた。 「あのモンスターを倒してしまえば、大我はまた帰ってしまうんだろう?」 「当たり前だ!俺はモンスター退治に来たんだよ!離せ!くそっ!」 「お願いだ、僕の話を・・・・・・想いを受け取って欲しいんだ!」 耳元で必死にお願いするノアの圧に負けて、俺はつい黙り込んでしまった。それをノアは肯定してくれたと受け取ったのか、後ろから俺の事を抱きしめたまま、ゆったりとした口調で語り始めた。 「僕の能力は5秒間見つめあった相手を恋に落とす力なんだ。過去の魔法少女も、この力を使って全員倒してきた。僕のこの能力は、性別や人種関係なく、命がある生き物なら全てに有効なんだ。でも、いつしか僕はこの能力のせいで本当の“愛”を失ってしまった。僕と目が合えば誰もが僕のことを好きになってしまう。でも、こんな能力を使った愛なんて、本当の愛なんかではない。きっと僕は、本当の愛を知らないまま死んでいく。本当の愛を知りたいと思いながらも、どうせ無理だといつしか諦めてしまっていた。・・・でも・・・大我。君には僕のこの能力が効かなかった。こんなの356年生きてきた中で初めてのことだ。君に僕の能力が効かないとわかった瞬間、運命だと思ったんだ。すごく嬉しかった。君と、大我と本当の愛を育みたい。だから、僕と――――」 「なぁーーーにやってるピプか~!?大我~~~!!!早くモンスターを倒すピプ!!もう街がめちゃくちゃになってるピプ!!」 ポンッとコミカルな音を立てて、俺の顔の目の前に現れたピプ。 「な、なな何してるピプかぁ~~!?ま、まさか大我も歴代魔法少女達と同じようにやっぱりノアの能力にかかっちゃったピプ!?あわわわっ、早く次の魔法少女を探さなきゃピプ~・・・。」 「誰がこいつの色仕掛け能力なんかにかかるかよ。俺は至って正常だ。」 俺の肩に乗せるようにして、顔の横においてあったノアの顔面を鷲掴んで、ぐいっと強引に押し返して無理矢理引き剥がす。うぐっと小さく苦しそうな声をノアが上げた。 「おい、そこの出来損ないの小人族。僕と大我の大切な時間を邪魔しないでくれるかな?」 「誰が出来損ないピプか!!さては、大我にお得意のメロメロ能力が効かなくて焦っているピプね?お前の能力が効きそうにないやつを見つけるのは苦労したピプ。でも、これでついにピプの勝ち確定ピプね~。」 べーと舌を出し、人をおちょくるような変な動きをするピプ。ノアの眉がピクリと動いた。 「相変わらず人をイラつかせるのが上手だね、君は。君なんかが僕より長く大我と一緒にいれると思うと心底腹が立つ。嫉妬で君を串刺しにしてあげたくなるよ。」 にっこりと笑いながら言うノアの目は一ミリも笑っておらず、自分に言われたわけではないのに、何故か俺がぶるっと身震いをした。 というか、なんだこの状況。俺、置いてけぼりなんだが。なんか、ちょっと切ない。仲間外れにされた気分だ。   「愛だのなんだの、いつも通り薄っぺらい言葉を大我に向けて言っても1ミリも効果ないピプよ。偽りの恋愛ごっこはもうやめるピプ。」 「っ!!偽りなんかじゃない!僕は本気で大我のことを!」 「あーはいはい。大我、これも全部ノアの作戦ピプよ。ノアは歴代の魔法少女全員に、好きだの愛してるだの言って、魔法をかけては全員殺してきた極悪人だピプ。ノアの言うことは全部信じない方がいいピプ。」 「なっ!違っ!たしかに、過去の魔法少女に言った言葉は偽りだったけど、でも、大我に伝えた言葉は嘘なんかじゃない!僕は本当に大我のことをっ!」 「はい、どうせそれも嘘ピプ~。」 「嘘なんかじゃない!大我、信じてくれ!俺は本当に大我のことが好きなんだ!」 まさに、火に油のごとく、ピプの発言でノアはヒートアップしていく。信じてくれ!なんて言われても・・・仮に信じたとして俺に一体どうしろと・・・?この状況にどう終止符を打つべきか、と悩んでいると、ピプがすごい剣幕で俺の名前を呼んだ。

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