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第16話「不法侵入!!」

あれから、モンスターは毎日ように現れるものの、ノアの姿を見ることはなかった。 モンスターを倒した後、変身を解かずに数分間待ってみたこともあったが、それでもノアが現れることはなかった。戦いが終わってもなかなか変身を解かない俺は、ピプに早く変身を解くピプ!と催促されてようやく変身を解く。というのが、最近のお決まりの流れとなっていた。 「はぁ…今日もいなかったな…。」 いつも通り、残業終わりのモンスター退治後に帰宅した俺は、家の鍵をシューズボックスの上に投げるようにして置いて、雑に靴を脱ぐとドンドンと足音を立てて廊下を歩く。 俺の住む部屋は1LDKで、短い廊下が各部屋の分岐点となっている。右手にトイレと脱衣所付きのお風呂場。左手に俺の部屋。正面にリビングとダイニングキッチン、となっている。俺は迷わずリビングへと向かい、ソファーにどすんっと半ば倒れ込むようにして座ると、ネクタイをぐいっと引っ張り、首元を緩めた。 「あー、今日も疲れたぁー…。」 全身の力を抜き、ぐったりと脱力する。力を抜きすぎてソファーからずり落ちかけている。 重たい瞼をそっと閉じれば、まぶたの裏側に浮かぶのは、最後に見たノアの泣きそうな顔。あの顔を見た瞬間から、ノアの泣きそうな顔が頭に焼き付いて離れなくなってしまった。 なんか…なんつーか…まるで俺が悪いみたいじゃねぇかよ…。俺なんもしてねぇよな?それなのにあれっき姿を現さないって、どういうことだよ?てか、なんで俺があいつのことでこんなに頭を悩ませなきゃいけねーんだ。あぁ、腹が立つ。 「あぁー!もうっ!くそ!酒飲んで忘れてやる!」 「ビールでよかったかな?」 「あぁ、ありがとうな。」 目の前に差し出されたビール缶を受け取れば、プルタブを開ける。 カシュッという音と共に、しゅわしゅわと爽快な音が鼓膜を刺激する。今日あった嫌なことも、胸でもやもやと戸愚呂を巻いている黒い物体も、全て一気に流し込むようにビールをゴクゴクと飲んで体内に取り入れていく。 缶の半分くらいを飲んだところで、ようやく飲み口から口を離して、ぷはーっと息を吐いた。アルコールがカラカラに乾いた心と体全身に染み渡っていくこの感じが気持ちいい。 「晩御飯まだだろう?スープトマトパスタを作ってみたんだ。口に合うといいんだけど…。」 ゴトッとソファーの前に設置されてあるローテーブルに置かれた白いおしゃれなお皿。 お皿の上にはきれいにくるりとパスタが右回転で巻かれてあり、角切りにされたトマトと白い塊…多分チーズ?だと思う。それと、中央には葉っぱ(なんかおしゃれなやつ)が乗せられてあって、めちゃくちゃ美味そうだ。思わず、「うわっ、超うまそっ!」と口から言葉を零した。 「ふふっ、ありがとう。フォークでいいかな?それとも箸の方がいいかい?」 「いや、フォークで大丈夫だ。ん、さんきゅ。」 ノアからフォークを受け取ると、机に置かれたお皿の前に座り直して手を合わせる。美味しそうな香りが俺の嗅覚を刺激して、空っぽの腹が反応してきゅるるっと鳴った。 「いただきまー…。」 ……ん????ちょっと待てよ????なんかおかしくないか・・・? パスタをまこうとしてお皿に伸ばしたフォークを持つ手を途中で止めて、ソファーの横に立っているノアの顔を見上げる。にっこり笑顔を浮かべて何食わぬ顔のノア。俺はカッと目を見開いてその場に立ち上がった。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁっ!!!!!?おまっ!?うぇ!?な、なんでぇ!?なんで俺の家にいるんだよっ!!??」 フォークの先端をノアに向けて、戦闘ポーズを構える。ここ数日間ずっと現れなかったくせに、突然現れたと思たら自宅にいたって…不法侵入だぞ!つーか、全然元気そうじゃねぇか!数日間ずっともやもやしてた俺の時間を返せ! いろんな思いがボコボコと沸騰したお湯のように湧き上がってくる。 「窓の鍵が開いてたから。無用心だよ、いくら部屋が6階だからってちゃんと戸締りしておかないと。」 「あ、あぁ…わかった、気をつける。…いや、そうじゃなくてぇ!!!何しに来たんだよって聞いてんだ!モンスターが現れる場所には全然姿を現さなかった癖に!」 「あれ、もしかして僕に会いたかった?」 「はぁ??なんでそういうことになるんだよっ!」 くすりと小さく笑うノア。なんでそんなに楽しそうなんだよ。当たり前のようにソファーに腰掛けると、俺の顔を見上げて、ぽんぽんっとソファーを2回優しく叩く。 きっと、隣に座れという合図だ。勿論、座るわけない。足元に投げ捨てていた鞄の中からステッキを取り出すと、フォークからステッキに持ち替えて再び戦闘ポーズを構える。 「何しに来たかって聞いてんだよ。俺を殺しに来たのか?あっ!わかったぞ!そのパスタに毒を盛ったんだろ!それで、その毒で俺を殺そうと・・・!」 「違う、そんなんじゃないよ。僕はただ、大我に僕の手料理を食べてほしくて。」 「嘘つけぃ!んなわけあるか!敵の作った料理なんか食べれるわけないだろ!」 強い口調で俺がそう言いきれば、ノアは目線を下に落とした。あぁ、まただ。あの日と同じ顔。やめろよ、その顔。俺が悪いみたいな、そんな顔。これじゃあどっちが本当の悪なのかわかんないだろ。 「お前…その顔…やめろよ…。」 ノアの泣きそうな顔を見るのが耐えきれなくなった俺は、ステッキを下に下ろして、ついに心の中の言葉を吐き出した。 「なんだよ…俺が悪いみたいな、その感じ。俺別に何もしてねぇのにさ…。」 ノアの眉がピクリと動いた。

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