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第23話「トマトも食べなさい」
「そうだ、大我。次の休みはいつだい?今日で10連勤目だから、そろそろ休日が来るんじゃないかと思うんだけど。」
10連勤が当たり前のように言うんじゃない。まぁ、当たり前ではあるんだけど…。ポケットからスマホを取り出し、カレンダーアプリを開いてスケジュールを確認する。
「あー、そうだな。何もトラブルがなければ今週の日曜日は休めそうだ。…それがどうかしたか?」
「いや、何でもないよ。気になったから聞いてみただけさ。」
なんだそれは。何か良からぬことを企んでいるんじゃないかと思い、ノアの顔をじっと観察しながらご飯を食べ進める。まさか、ブライダル館の下見に行こうとか言い出さないよな!?
そういえばこの前の休日、一緒にコンビニに行ったときにノアは真剣な眼差しで雑誌コーナーを見つめていた。雑誌を手に取ることはせずとにかくじぃっと雑誌の表紙を凝視していた。あの時はファッション誌が気になるのかと思っていたが、思い返せばあの棚にはブライダル雑誌が並んでいた。「何か気になるのあったのか?」と酒を選び終わって声をかけたらいつも通りの笑顔で「なんでもないよ。」と言っていたが、あの時のノアは明らかに何かを隠すかのような焦りが感じられた。
これは確実だ。絶対次の休み、ブライダル館の下見に誘われるに違いない。先手必勝。フラグは先にへし折っておくべし。
「ノア。先に言っておくが、俺は休日どこにも出かけないからな。気のすむまで寝るって決めてるんだ。睡眠の邪魔したらまじで容赦しないからな。」
少しでも隙を見せたらいつも通りノアのペースに持っていかれる。だから俺は少しきつめの口調でそう言ってやった。さぁ、俺様魔王様のノアはどう出てくる?どうせあれこれ屁理屈を並べて自分の思うがままに物事を捻じ曲げてくるんだろう。そう踏んでノアの口から次に放たれる言葉に身構えた俺だが、ノアは穏やかな顔でにっこりと笑った。
「わかっているよ。大我は毎日頑張って疲れているから、僕としても休日はゆっくり体と心を休めて欲しいからね。ただ僕は、1日中大我の傍に入れるだけで嬉しいから。次、その日はいつ来るんだろうって気になっただけだよ。」
ノアの言葉に俺は仰天した。こいつ、本気で言ってるのか?傍にいるだけでいいって…普通好きだったら一緒にいろんな場所に行ったり、あれこれ思い出作りのようなことをしたいと思ったり、我儘みたいなことまで要求するものだろう。
いつも自己中で強引なくせに、こういう時は変に謙虚で欲がないから調子が狂う。用意していたノアを論破するための数々の言葉が脳内から消えていく。なんて返そうか…。箸でサラダをつつく。くし形に切られたミニトマトだけを器用に皿の端っこに追いやりながらひたすら次に返す言葉を考え続ける。
「…1日中傍に入れるって言っても…まじで寝てるだけだからな?前回の休みと同じ感じで。お前の相手なんて、しないからな?」
様子を窺うようにそおっとノアの顔に目線をやる。あの、俺の嫌いな悲しい顔をしていないかが怖い。あの顔をしたノアは見たくない。俺が悪いみたいな気分になるのは嫌だから。だが、俺の心配は問題なかったらしい。ノアは珍しくふはっと吹き出し笑った。
「わかってるって。大体、前回の休みどころか、大我は休日、今までずっとそうだっただろう?今に始まったことじゃないじゃないか。今更そんな確認するだなんて、大我は面白いね。」
けらけらと笑うノアに俺はイラっとした。なんだその言い方は。それじゃあまるで、俺が何の気も使えない自己中なごみ人間みたいじゃないか。反論してやりたいが、ノアの言う通り今までもずっとノアのことを放置して1日中寝て過ごしていたのは事実なため、何も言い返せれずに俺は黙ってサラダを食べた。
ここで、じゃあ次の休日はどっかに連れて言ってやるよ!と言えばまだマシなんだろうけど、それさえも言わない俺は本当にごみ人間なのかもしれない。だって、面倒くさいし。
「大我がいれば、僕は他に何も望まないよ。元々僕は、欲がないからね。」
トマト以外のサラダを完食して、トマトは食べません。という気持ちを表すため、ずいっとノアの方へサラダボウルを押し付けると、ノアはトマトを見て、あぁ!またトマトだけ残してる!と頬を膨らました。
“欲がない”ノアは時々、この言葉を発する。
確か、この言葉を初めて聞いたのは2回目のプロポーズをされた時だった気がする。欲がない…。確かに変なところで欲がないなぁとは思うが、どこからどう見ても、ノアは欲丸出しだろう。最近はあまり言うことはなくなったが、出会った当初は結婚だの強引なキスだの、それはもう本能のままに生きてるって感じで欲の塊って印象だった。ノアが俺の家に住みつくようになってからも、ノアは時々「僕は欲がない」という言葉を口にしていた。
一体どういう意味なんだろうか、とずっと俺は気になっていた。ぼんやりとノアの顔を見ながらそんなことを思っていると、目の前に箸で摘ままれたミニトマトをずいっと差し出された。
「ほら、ちゃんとトマトも食べて。」
「嫌だ。嫌いだって何回も言ってんのになんで毎回サラダに入ってんだよ。」
「体にいいからに決まってるだろう。大我の体のことを思って栄養を考えて作っているんだから。ほら、口を開けて。」
口目掛けてどんどん迫ってくるトマト。俺は顔を背けていーやーだー!とまるで子供のように嫌がった。
「そういえばずっと気になってたんだけど、お前時々、自分には欲がないって言うよな。あれどういう意味だよ?」
「こら。話を変えて誤魔化そうとしても無駄だからね。ちゃんとトマトも食べるんだ。」
ちぇっ作戦失敗。トマトを差し出す手を引っ込める気のないノア。毎回毎回無理矢理食べさせられてるから、今日こそは断固として食べないつもりだ。むぅっと固く口を閉じれば、ノアはこら、口を開けなさい。と言った。お前は母親か。
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