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第24話「2つの星の過去」

トマトを食べろ食べないの戦いが開始されて2分ほど経った時だった。ぽんっとコミカルな音を立てて突然ピプが食卓に現れた。 「美味しそうな匂いがするピプ~。あっ!今日はもうご飯の時間が始まってるピプ!この茶色い美味しそうな匂いのする液体はなんて料理ピプ?」 スプーンで俺のビーフシチューをすくいあげ、興味津々な眼差しでビーフシチューを見るピプ。 「ビーフシチューって言うんだよ。つーか、毎日のように食事の時間になったら現れて人の飯を狙うのやめろ。」 「ビーフシチューっていうピプか!美味しそうピプ。いただきまーすピプ♪…ん~!美味しいピプ!地球の食べ物はどれも美味しいものばかりピプね。」 ピプはスプーンを持つ手の動きを止めることなく、次々に口へとビーフシチューを運ぶ。おい、やめろ。俺の晩御飯がなくなるだろ。そろそろ止めに入ろうとしたところで、俺より先にノアが止めに入った。 「おい、この出来損ないの小人族。お前に食べさせるために僕は料理したわけじゃないんだ。僕は大我に食べてもらうために作ったのに何を勝手に食べてるんだい?」 にっこりと笑いながら言うノアの目は相変わらずひとつも笑っていない。ノアと住むようになって、俺の中でノアは家事代行ロボットとして認識しているためすっかり忘れてしまっている時が多々あるが、こいつは紛れもなく地球を侵略しようとしている魔王なんだった。  ピプを怒る時だけ毎回無駄に魔王らしいオーラを放つのはやめてほしい。その圧で毎回俺も少しビビってしまうから。ノアに首根っこを摘ままれ、宙ぶらりん状態のピプが手足をばたつかせジタバタと暴れる。やめろピプー!と叫びながら必死の抵抗を見せるが、当然無意味な行動だ。 毎回食事の時間になると、再放送のように目の前で繰り広げられるこのやりとり。初めの頃は、ノアが俺の自宅にいることにピプは酷く驚き恐れ、必死にノアを追い出そうと奮闘していた。 頭が痛くなるほど何度も俺に、ノアを追い出せだの、隙を突いて殺せだの言ってきていたが、どうやらピプはノアに胃袋を掴まれたのか、いつの間にか毎回食事の度にこうして突然姿を現し、前ほど口うるさくノアを追い出せと言わなくなった。  もちろん、自分の星を奪った張本人なのだから許してはないし、今でも恨んではいるんだろうけど、傍からこの2人のやりとりを見ていると、なんだかとても仲良しに見える。 喧嘩するほど仲がいい、という言葉が似合うんじゃないだろうか。 ちなみに、それを一度2人に伝えたら、すごい剣幕で2人に怒られた経験があるから、それ以降俺はその言葉を口にしていない。でも、やっぱり仲が良く見える。なんか、俺だけ仲間外れみたいで疎外感を感じる。俺は2人のやりとりを見ながら、ノアの持つ箸に摘ままれたままのトマトをぱくっと食べた。うん、やっぱくそまずい。 「で、欲がないってどういう意味なんだよ。」 トマトを水で流し込むと、まだまだ続きそうだった2人の言い合いに割って入るかのように、さっき投げたままだった質問をもう一度投げかけた。 「ん?あぁ、そうだったね。僕達エビルディ星人はみんな、欲深い生き物なんだ。この世界、宇宙全てをも自分のものにしたい。一度欲しいと思ったものはどんな手を使ってでも必ず自分の物にして見せる。それがどれだけ酷い手口だったとしてもね。でも、何故か僕は幼い頃から欲がなくて、何かを欲しいと思ったことが一度もなかったんだ…。エビルディ星の血が流れてるはずなのに、おかしいよね。でも、おじい様だけはそんな僕を変だと言わなかったんだ。」 「グライド様が王だった頃のエビルディ星は良かったピプ。ピプの星、ぺぽぴっと星との関係も良好で、隣合っている星同士、お互いが支え合い生きていたピプ。」 「グライド様…?誰だ?王はずっとノアじゃないのか?」 「グライド・ウォル・リース。僕のおじい様さ。おじい様が王だったのはもうずっと前の話で、当時の僕はまだ66歳だった。」 66歳って…もうほぼ人生終わってるじゃねぇか。と思ったが、多分、星によって年数の数え方や時間の流れが違うのかもしれない。だって、ノアは今年で356歳らしいが、見た目はどっからどうみても俺と同じ年齢だから。地球は人生100年時代と言われているが、宇宙へ飛び出せば、人生1億年時代とか、そういう次元なのかもしれない。 なんせ、地球人にとって宇宙はまだ未知の世界なのだから、聞いたところで理解できる気がしない。とりあえず、話の流れを折ることはせず、一旦黙って2人の話を聞くことにした。 「おじい様は全てを奪って自分の物にする、というよりは、自分だけじゃなくて周りも幸せになる方法で自分の欲を満たしていく人だった。当時は近隣の星で宇宙戦争が起こっていてね。ぺぽぴっと星もその戦争に巻き込まれそうになっていたんだ。そこで、戦闘能力を持ち合わせていないぺぽぴっと星を守る代わりに、ぺぽぴっと星を治める権利を渡すという契約を交わしたのさ。」 「今思い返しても、グライド様がぺぽぴっと星を治めてくださっていた時が一番平和で暮らしやすかったピプ。何不自由なく、エビルディ星のみんなとも友好的な関係で、本当に幸せだったピプ。グライド様には感謝してもしきれないピプ。」 どこか遠くを見つめるような目で、ピプは昔の思い出に浸って語る。ぺぽぴっと星とエビルディ星にそんな過去があっただなんて。 初めて聞いた。でも、なんでそんなにいい関係を築けていたのに突然関係に亀裂が入ったんだろうか。2人の話す内容はあまりにも壮大なスケールの話で、俺はSF映画のあらすじを聞いているかのような気持ちになり、それでそれで?と話の続きを催促した。 「グライド様が衰退で亡くなられて、王はグライド様の息子であるルゥガに引き継がれたピプ。」 「ノアのおじいさんの息子ってことは…ノアの父親ってことか?」 ノアの顔に目線をやると、ノアは無言でこくりと頷いた。その表情は暗く曇っていて、胸がざわついた。 「ルゥガに王が変わった瞬間、ぺぽぴっと星の全てがエビルディ星に奪われたピプ。言うこと成すこと、全てがあまりにも理不尽で…でもそれに逆らった奴は全員殺されたピプ…。」 ピプは今にも零れ落ちそうなくらい目に涙を溜めていた。 きっと、ピプの大切な人達もたくさんルゥガに殺されたんだろう。そう思うと、胸がギリッと痛んだ。正義のヒーローぶっているわけではないが、さすがの俺もそんな悲しい話を聞いて、へーそうなんだー。って一言だけで済ませれるほど心のない人間ではない。 机をバンっと叩いて椅子から立ち上がると、俺は感情のまま大声で宣言した。

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