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第25話「ノアの過去」
「なんだよその自己中心的で最低な王は!俺が絶対そのルゥガって王を倒してやる!」
――俺が宣言して5秒ほど、謎の沈黙が生まれた。え?何?俺何か間違えたこと言った?こういうのって魔法少女の仕事だよな?変な空気が流れるなら、ノアの気まずそうな顔を見てはっとした。しまった。
どんだけ最低な王だとしてもルゥガはノアにとって実の父親。そりゃ、自分の父親を殺すだなんて目の前で高らかに宣言されたら気まずいに決まっている。俺は慌ててどうにかして取り繕おうとした。だが、ノアが気まずい顔をしたのはどうやら別の理由だったらしい。
「あの…大我。僕の父上はその、もう、いないんだ。」
いない…?というのは、つまり、死んだ、ということなのか?意味がわからず黙ったままノアを見つめていると、ピプが補足説明をしてくれた。
「ぺぽぴっと星には戦闘能力がないかわりに、いざという時の為の、代々伝わる封印の呪文があるピプ。当時ぺぽぴっと星の王様だったポップル王が、ルゥガとの一騎打ちをした時にその呪文を唱えてルゥガを封印したから、もうルゥガは死んだも同然ってわけピプ。」
「正しくは肉体だけ滅んで、魂だけが残っているって言った方が正しいかな。まだ父上の魂はエビルディ星にあって、体はないけど念力で会話はできるよ。
なるほど、じゃあ半分死んでいて半分生きているみたいな状態ってことか。だから必然的に今、エビルディ星の王はノアってことになったのか。それにしても、封印の呪文だとか、魂だけは生きているだとか、まさに小さい頃に見た戦隊ヒーローと同じ展開でなんだかわくわくする。主人公になった気分だ。
……ん?待てよ。戦隊ヒーローと同じ展開なら…。
「…あの、気になることがあるんだけど、そのルゥガって元王様は魂は生き残ってるんだよな?じゃあ、例えば、代わりとなる体を見つけたらもしかして生き返るんじゃ…。」
「あぁ、そうだね。でも、その心配はないよ。父上の魔力はあまりにも膨大で代わりとなる器は存在しないと言われている。だから、きっとあのまま魂だけの姿で衰退して行くだろうね。」
「……お前、実の父親だろ?なんでそんなにあっけらかんとしてんだよ…。」
ルゥガのことを語るノアは、あまりにもあっさりとしていた。
むしろ、ルゥガがそのまま衰退していくことにホッとしているような、そんな風にも見えた。家庭内のことだろうし、気になりはするが変に詮索するのは失礼かもしれない。いらないことを言ってしまった。と後悔していると、ノアは無理に作った笑顔でははっと笑った。
「僕は、父上に酷く嫌われていてね。王国の者として、欲がないなんて出来損ないだと幼い頃からさんざん言われ続けたんだ。僕なりにどんな手を使ってでも手に入れたいと思えるものを必死に探したさ。でも、何を見ても僕はひとつも興味を持つことができなかった。僕がおかしいってことは理解している。でも、どうしても、素敵だと思えるものが見つからなかったんだ…。…僕はおじい様の考え方が好きだった。おじい様の周りにはいつも笑顔で溢れていたんだ。いつしか僕も王になる、その時はおじい様みたいに周りの人を幸せにできる王になりたい。そう思っていたんだけど…。」
ノアは俯いて黙り込んでしまった。本当はノアは、地球を侵略なんてしたくないと思っているんだと、俺は気づいた。ノアは欲がない。地球なんて欲しいとこれっぽっちも思っていない。自分で言うのもなんだが、ノアが欲しいのは俺だけだから。じゃあ、なんでノアは地球を侵略しようとしている…?もしかして――
「ノア…お前、ルゥガに命令されて動いてるのか?」
ノアの肩がぴくっと動いた。正解だったようだ。俯いて黙ったまま、こくりと首を縦に振った。
俺はカッと頭に血を上らせた。なっても未だなお、自分の欲を満たすために嫌がっている息子を使ってまで他の星を手に入れようとするだなんて、ありえない。最低だ。
だいたい、ノアもノアだ。相手はただの魂。無視しておけばいいものを何故へこへこと言う事を聞くんだ。口にはしないものの、きっとノアはルゥガの事が好きじゃない。自分の事を罵倒してくる相手のことなんて、たとえ家族だったとしても嫌いになって当然だ。そんな嫌いな相手からのくそみたいな我儘をなんで叶えてやる必要があるんだ。お前が理想とする王の姿があるなら、それを目指すべきだろう。
ノアへのお説教の言葉が喉元で渋滞を起こしている。何から言ってやろうかと考えていると、ノアは「どんなに嫌い合っていても、僕にとっては父上だから…。」と言った。俺は、はっとして、喉元まで来ていた言葉全てごくりと飲み込んだ。
そりゃそうだ、当然だ。どんだけ相手が酷い事を言ってお互いがお互いの事を嫌いでも、家族という縁は切れないものなのだ。確かに、もし俺がノアと同じ境遇だったとしたら、きっと俺もノアと同じことをすると思う。どれだけ嫌いでも、やはり家族は家族なのだ。他人とは違う、目に見えない何かで繋がっている。
俺は、そっか…とだけ返した。部屋の空気が重い。まるでお通夜みたいだ。なんでピプはこういう時だけ空気を読んで大人しくなるんだ。いつもは常にわぁわぁ喋ってうるさいくせに。キッとピプを見つめるが、故郷を思い出してセンチメンタルになってしまったのか、机の上に短い脚を放り投げて座り、少し俯き気味でしゅんっとしおれている。この重たい空気をなんとかしなくちゃ…。必死に場を盛り上げる話題を考える。
「そ、それにしても、ノアの昔の話が聞けて超レアだったなー!!新しい一面を知れた、みたいな?はははっ。」
あまりにもわざとらしい俺の大根演技を見て、ノアは目をまん丸にさせ驚いた顔で俺を見つめた。そんなに驚かなくてもいいだろ。はいはい、どーせ演技下手ですよ。スマートじゃないですよ、空気を変えようとしているのモロバレですよ。むかついた俺はむっとした顔で、ノアを見ると、「なんだよ。」とほぼ八つ当たりのような言葉を投げた。
「ふふっ、じゃあ、僕も大我のこともっと知りたいな。質問してもいいかい?」
さっきまでの作った笑顔じゃない、いつもの自然な笑顔で笑うノア。よかった、少し機嫌が直ったみたいだ。「いいぞ。」と俺が返事をすると、ノアは明後日の方向を見ながら、んー…と質問内容を考える。数秒経って、何か思いついたらしく、あっ!と声をあげた。変な質問じゃなければいいけど…。
「大我はさ、なんで魔法少女になったんだい?」
「え?そんな質問でいいのか?あー…そうだな、願い事を叶えるため、だな。」
「願い事?それはどんな願いだい?」
「ホワイト企業に再就職!」
拳を天へと高く掲げ俺がそういうと、ノアはぽかんっと口を開いたまま間抜けな顔で俺を見つめた。こいつ何言ってんだ?みたいな顔で見るのはやめろ。俺にとってはまじで超超大切なことなんだぞ。
「うーん…それは、今すぐにでも自力で叶えれることなんじゃないかい?」
はぁ…これだから地球生活たったの2か月の生物は…。俺はオーバーに溜息をつき、やれやれと首を振った。
「いいか?この地球という星ではたくさんのブラック企業がある。そして今俺が働いている会社もその数あるブラック企業の1つだ。そんな星の数ほどあるブラック企業をどうやってたった1枚の採用募集資料だけの情報で判断して弾けと…?ここはホワイト企業だって思って再就職した先がまたブラック企業だったらどうする?俺はもう二度とそんな失敗はしたくないんだよ!つまり、魔法少女としての使命を果たし願い事を叶えてもらうことによって、確実に一発でホワイト企業に再就職できるってわけだ!一切無駄がない!天才的アイデアだろう!」
ばっと両手を広げ、天を仰ぐかのようなポーズを取れば、ノアはなるほど。と言いながらぱちぱちと拍手をした。うん、多分これ以上は面倒だから適当に反応しているな。
「まぁ、ぶっちゃけ選択肢が生きるか死ぬかだから、当然生きるを選ぶだろ。だから、必然的に魔法少女になった。ただそれだけだ。」
話に夢中になりすぎて、あと一口分残っていたビーフシチューをこそぎ集め口へと運ぶ。温かかったビーフシチューはすっかり冷え切っていた。
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