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第40話「心も頭も体も、全部僕で埋め尽くしたい」

ご飯を食べ終わり、一緒にお風呂に入るかい?と本気か冗談かわからないノアの言葉に、誰が入るか!と突っ込みを入れてお風呂に入り、ベッドへと向かう。  少し開いているドアの隙間の向こう側から、脱衣所でノアがドライヤーで髪を乾かしている音が聞こえてくる。  やばい、どうしよう。やばい…!頭の中で何がやばいのかわからないまま「やばい」という思いだけがぐるぐると回る。自分から誘っておいて、いざその時が来るとなると一番ひよっているのは俺だった。いつも通り普通に服を着たけど、脱いでおいた方がいいのか?というか、普通にそのままベッドまで来たけどこれじゃあやる気満々みたいで気持ち悪い?一旦リビングに行くべき?いやでも…。  あぁでもないこうでもないと思考を巡らせれば巡らせるほど何が正解かわからなくなっていく。 「と、とりあえず、水を…。」 ベッドから立ち上がり、ドアノブに手をかけようとした時だった。ブオーっというドライヤーの音がぴたりと止み、脱衣所の扉が開く音がした。や、やばい!ノアがこっちに来る!俺は咄嗟にベッドに滑り込み、バサッと布団を被ると狸寝入りをした。  キィッっとドアが小さく鳴ると部屋に差し込む廊下の光が大きくなる。ギシッとスプリングが鳴って空白になっていた俺の隣が沈む。手で髪をとくようにして頭を撫でられると、それが気持ちよくてついぶるっと身震いをしてしまった。さすがに起きてることに気づかれたかと思ったが、どうやらノアは気づかなかったらしい。ちゅっと俺の額にキスをして、おやすみ、と囁いてベッドから降りようとした。 え?まじで?それで終わり?せっかく勇気を出して誘ったのにまた今日も流れることになるだなんて流石にもう我慢の限界だ。俺はベッドから立ち上がろうとしていたノアの腕を強い力で引っ張って再びベッドへと引きずり戻した。 「お前、なんでこういう時は欲丸出しになんねぇんだよ、ばか。」 「大我は寝込みを襲われるのをご希望で?」 「違ぇよ、なんでそうなるんだよ。俺はもっと、お前に…その…。」 求められたい、なんて言ったらがっついてるみたいで気持ち悪いかな。不安で続きの言葉を言えないでいる俺を宥めるかのように、ノアは優しく抱きしめた。 「ごめん。本当は起きてるの気づいてたけど、ちょっと意地悪しちゃった。大我が僕のことを求める姿をもっと見たくなってね。」 俺は完全にノアの作戦にまんまとはまってしまっていたらしい。ノアの手のひらの上で踊らされてたということか…?目の前にある嬉しそうにくすくすと笑うノアの顔を見ると、怒りが倍増する。くそっ、やられっぱなしなんか性に合わない。ノアが俺に翻弄されてたじろいでいるかっこ悪い姿を見ないと気が済まない。 くすくすと笑っているノアの上に覆い被さり、強引にキスをした。お互いの舌が絡まり合い厭らしい音が響いている。 「んっ…はぁっ…。」 「大我…。」 スイッチが入ったらしい。熱っぽい声と瞳で俺の下にいるノアが俺を見る。腹から胸へと指を這わすようにして動かせば、んっ…とノアは小さく反応した。つーか、なんでこいつ上半身もう既に裸なんだよ。 「ノア、すっごいドキドキしてるけど。本当は我慢できないくらいこういうこと期待してたのはノアの方なんじゃねぇの?」 ノアが俺のことをいじめる時の顔を真似してにやりと笑ってみせる。ノアは頬を少しだけピンクにさせて目を潤わせていた。これは堪らない。いつも俺より優位に立ってるみたいな顔をしているノアが、俺の下で頬を赤らめて目をうるうるとさせてるだなんて。もっともっと攻めてノアの恥ずかしい面を見たくなる。 「どうしたいか、言ってくれないと俺やらないよ。」 いつも恥ずかしい言葉を言わされてばっかりだから、ノアからも恥ずかしい言葉を引き出してやろう。  と思ったこの一言が間違っていたのか。いや、それとも結局俺はノアに勝てないというだけなのか。気づけば立場は逆転しており、俺はノアの下にいた。しかも、両手を掴まれて抵抗できないようにされた状態で。  違う!俺が望んでたのはこうじゃなくて、俺が優位な位置に立ちたかっただけで、抱くのは俺で抱かれるのはノアで…!ちょ、違、待って!と必死に抵抗するが、ノアのぎらついた琥珀色の瞳に間近で見つめられながら、低くて甘ったるい上に熱を帯びた色っぽい声で俺の事を求められたら逆らえるわけない。 「大我の全部が欲しい。大我の心も頭も体も、全部全部僕で埋め尽くしたい。」 「っ~…ばかノアっ!もうお前の好きにしろっ!」 ばか。もうとっくに、俺の中はお前でいっぱいだよ。  結局俺はノアには勝てない。いや、恋愛に勝ち負けなんてないか。強いて言うならば、俺たちはどちらと負けている。ノアが俺のことを好きなった瞬間からノアは負けていて、ノアのことを好きになった瞬間から俺は負けている。お互い、惹かれ合ってはいけない関係だとわかっているのに、恋という感情に負けたから俺達は今こうして2人でいるんだ。 まぁ、どうだっていい。こうしてノアが俺のことを心の底から求めてくれているのなら。ずっとノアが傍にいてくれるなら。後のことはどうだっていい。ノアの好きにさせてやろうじゃないか。

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