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第48話「2人を引き裂く身分」

「それでも…ピプは2人の結婚を反対するピプ。」 力なく首をゆっくり左右に振るピプに、俺はさらに食って掛かろうとした瞬間、それを阻止するかのようにぎゅっとノアの腕に掴まれた。「もういいよ」と言われているような気がした。 「ありがとう、大我。僕も大我と別れるなんて絶対にありえない。だって、大我の隣は僕、僕の隣は大我がマストなんだろう?それなら、それを守らなきゃいけないからね。」 怒りで高ぶった感情を宥めるかのように、よしよしと頭を撫でられる。大丈夫、ノアはここにいる。俺の心臓はまだ動いている。大丈夫、まだノアと一緒にいられる。背中に手を回してぎゅうっと抱きつけば、ノアも抱きしめ返し、俺の肩に顔を埋めた。 「…っ、なんで僕は人間じゃないんだろう…。僕も同じ人間なら…。」 震えて掠れた声で、ノアがぼそりと呟いた。かなり小さな声だったから、普通なら俺にしか聞こえないくらいの声量だったが、部屋はしーんっと静まり返っていたためピプにも聞こえたかもしれない。体を離して顔を向かい合わせると、にこっとノアは笑った。 「なんて、そんなこと言っても仕方ないよね。それに、僕が魔王で大我が魔法少女になったからこそ、僕達は出会えたんだから。この出会いに感謝しないとね。」 あっけらかんとした様子を見せているが、笑っているノアの顔は苦しさと切なさが入り混じって見えた。無理するな、と言いかけた口に、ちゅっとキスを落としてノアが立ち上がる。 「僕は少し、エビルディ星に帰らせてもらうよ。エビルディ星に古くから伝わる魔術で大我が助かる方法があるかもしれないからね。少し調べに行ってみるよ。それじゃあ、大我。愛してるよ。」 ちゅっと投げキスをして、マントをバサッと翼のように羽ばたかせてノアは消えた。 重く沈んだリビングの空気。気まずい。一刻も早くこの部屋から逃げ出したくて、痛む腰を抑えながら、ゆっくりその場に立ち上がろうとしているとピプが沈黙を破った。 「ピプだって…わかっているピプ…。」 「え?」 「ピプだって、ノアが大我のことを本気で好きなことくらいわかってるピプ。ノアは昔から何に対しても関心が薄くて、誰のことも愛せなかった。そのことを本人も気にして悩んでいたことも全部知ってるピプ。」 あぁ、そうか。ノアとピプは俺が生まれる前の遥か昔、それこそエビルディ星とぺぽぴっと星の仲が良かった頃からお互いを知っていてずっと長い間一緒にいたんだった。だからピプは俺なんかより、ノアのことをよく知っているし、毎日言い合いの喧嘩をしながらも2人の会話はどこか親しげなんだ。なんだか、ちょっと悔しい。 「そんなノアが大我だけには強い執着と欲を現すピプ。ノアにもやっと、大切だと思えるものができたんだって思うと、ピプだって、そりゃあ嬉しいしできることなら幸せになってほしいピプ。…でも、ノアは地球を侵略しようとしているエビルディ星の魔王ピプ。敵ピプ。それは変わらないことピプ。」 「でも…ノアは自分の意志で侵略しようとしてるわけじゃねぇじゃん。ノアは父親のルゥガに命令されて仕方なくやってるだけで、ぺぽぴっと星を奪ったのだってノアじゃなくてルゥガじゃねぇか。ノアは関係ねぇ、悪くねぇだろ。」 「それでもピプ!ノアは悪くない…それでも、ノアはルゥガの息子、エビルディ星の一族ピプ…。ピプの家族はエビルディ星との戦争で全員殺されたピプ…。ノアは悪くないってわかっていても、それでも、ピプの大切な家族を奪ったエビルディ星の奴らは、許せれないピプ…。」 ぽろぽろと涙を流しながらピプは言った。俺はそれ以上何も言わなかった。言えなかったのだ。誰かに家族を奪われたことも、生きていく場所も失ったことのない平和ボケした俺がこれ以上何かを言う資格なんてないのだ。 外の冷たい空気で頭を冷やそうと、ベランダに向かう途中、ノアがローテーブルに置いたままにしたロミオとジュリエットの本が目に入った。本を手に取りぺらぺらと捲る。絶対、俺達はバッドエンドなんかにならない。

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