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第13話

 彼に関するデータが蓄積されていくということは、いいかえれば紺野英生というパズルが完成に近づくということだ。それは顔見知り以上、友だち未満という時期を経て、心の距離が縮まっていく過程と連動するのかもしれない。  頭の重みが肩に心地よい。八つ当たりをした分の借りを返すか、と独りごち、紺野の膝からずり落ちかけたビジネスバッグを自分の膝の上に載せた。そのくせ紺野が身じろぎをするたびに無性にどぎまぎして、彫像と化したように、いちだんとしゃっちょこばった。  駅を目前にして電車が停まった。信号が青に変わるのを待つ旨のアナウンスが流れ、勘弁してくれ、という空気が乗客の間を流れた。 (棚ぼた、だ……)  妹尾は、きょろきょろと車内を見回した。どの顔にも、うんざりする、と一様に書かれているなかで、自分ひとりが口許がゆるむ。おかしいじゃないか。  スラックスに視線を落とした。折り目がよれて、足はむくみ、靴も埃っぽい。早く家に帰って、ひとっ風呂浴びたいにもかかわらず棚ぼた?   足止めを余儀なくされたぶん紺野と一緒にいられる時間が延びたことを喜んでいるのか? ……まさか。  がたん、と電車が動きだした。妹尾がこころもち腰をずらすのと同時に、紺野が目を覚ました。そして妹尾の胸になかば埋めていた顔をこすると、こきこきと首の骨を鳴らした。 「巨乳美女に添い寝をしてもらってる夢を見ていたんだが、現実とは段違いだな」  妹尾は冷ややかな眼差しで応じた。紺野と別れがたいだなんて、たとえ一時(いっとき)にせよ感傷的な気分に陥ったのは、人恋しさがつのる秋という季節の魔法にすぎない。 「スケジュール的に、あしたは四時すぎに茶房でコーヒーブレイクだな。妹尾さんは」 「おれは……行けたら行きます」 「待ち合わせの約束するの、初めてだな」  紺野の声は深みのあるバリトンだ。寝起きとあって日ごろより一オクターブ低いぶん、艶っぽさが際立つ声で囁きかけられると、鼓動が早鐘を打ちはじめて返答に窮してしまう。  妹尾は急ぎのメールを打つふうを装って、スマートフォンをタップした。話しかけられても生返事で濁しておきながら、巣穴からそろそろと顔を覗かせる小動物のように紺野の一挙手一投足に神経を研ぎ澄ませる。  そうこうしているうちに、紺野が降りる駅に着いた。

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