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第4章 「お堅い妹尾さんでも×××」

      第4章 「お堅い妹尾さんでも×××」  日一日と秋は深まり、寄るとさわるとハロウィンの話題でもちきりの午後。  妹尾は、ダスターコートをはためかせて茶房に駆け込んだ。紺野が来ていないことにがっかりして、だが、おくびにも出さないで店主に会釈する。そのとき、背後に忍び寄ってきた影があった。  拳銃を模した指を背中に突きつけられた。振り返ると同時に、ジャック・オー・ランタンが脇腹に手を伸ばしてきた。 「我が社のお菓子をさしおいてライバル社のお菓子を贔屓にする悪い子はいねえが。いたら、こうだぞ。こちょこちょこちょ」 「くすぐるのは反則です。それにナマハゲが混じっています。仮にも社会人なら、もう少し分別のある行動をとったらいかがですか」 「だから忠告したじゃないですか。ウケるどころか顰蹙を買うのがオチだ、と」  店主がビヤ樽のような腹を揺すって笑った。 「俺はドMだ、怒られてナンボよん」  紺野は紫色のマントをさばいて、阿波踊りよろしく手足を上げ下げした。  妹尾は、むせ返るほど笑いころげながら椅子に崩れ落ちた。すると紺野は、まばゆげに目を細めた。 「妹尾さんでも爆笑するんだな」 「そりゃあ、人間ですからツボに入れば……というか、なにげに失礼なことを言いますね。罰として、おねがい煙草にどんな願をかけているのか白状してもらいましょうか」  紺野は、カボチャのお面を目深にかぶりなおした。 「企業秘密……と言いたいとこだが友人のよしみで出血大サービスで教えてやるよ」  妹尾は拍手をした。 「恋愛関係だ。何しろ相手は恐ろしくガードが堅い高嶺の花的存在で、おまじないにでもすがりたくなる」  ぎりぎり、と鉤爪を心臓を突き立てられたような胸苦しさに襲われた。妹尾は眼鏡をひといじりしてから、努めて朗らかな口調で皮肉った。 「恋愛、関係とはベタですね」  なぜかしら声がうわずる。 「就業中にコスプレをやってのけるほどのツワモノなら、常人には及びもつかない奇抜な答えが返ってくると期待したのに残念です」 「はいはい、お説ごもっとも。まあったく、優しげなツラに似合わず辛辣な御方だ」  妹尾は笑殺を決め込んだ。テーブルに頬杖をついて紫煙をくゆらす。友人、と舌の上で転がすと、あたたかなものが胸に満ち満ちてくる。その反面、煙草が苦みを増した。 (友だちならLINEのIDを教えてくれてもおかしくない……) 〝友人〟とカテゴライズしたのは便宜上のことで、紺野の中の格づけランキングにおける妹尾の順位は所詮、圏外なのかもしれない。

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