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第17話

 噴き出した。仮定する以前の問題だ。たしかに女性不信に陥る出来事があって以来、長らく禁欲生活を送っている。だからといって紺野とキスするだなんて、海水が砂糖水に変わってもありえない。  だいたい、なぜ紺野を例に引く? 紺野のあの、やや肉厚な唇が自分のそれと重なる光景が、妄想の産物という次元を通り越したリアリティをともなって脳裡をよぎるのは、なぜ……?  ぞくり、と背筋が震えた。跳ね起きると、その振動が下腹部に響いて、妖しいおののきが全身を走りぬけた。おののきはやがて一点に集まり、媚薬を服んだ憶えなどないにもかかわらずペニスが萌しはじめた。   膝を抱えて、体育座りに縮こまった。煙草を続けざまに灰にして、鎮まれ、と念じても駄目だ。眼鏡のフレームが鼻梁とこすれ合うさいのかすかな刺激にさえ、ちりちりと躰の芯が疼く。  ペニスは完全に形を変え、スウェットパンツの中心が膨らむ。ボクサーブリーフが湿り気を帯びるにつれて、出番が来るのを今か今かと待ちかねて右手が宙をさまよいだした。とにかく、いちど射精しないことには収まりがつかないありさまだ。  歯を食いしばった。同性の知り合いに劣情をそそられたあげく、彼をいわばに自分を慰めるだなんて正気の沙汰とは思えない。思考回路のどこかにバグが生じたのだ。 (萎えろ、頼むから萎えてくれ……!)  ネズミの死骸に電柱の根元にぶちまけられた吐瀉物。努めて汚らしいものを思い浮かべて理性を取り戻そうとしても、腰が独りでにもぞつき、穂先がじんじんする。  洋服の上からでも見て取れる。紺野は筋肉質だ。強靭なあの腕は、どんなふうに恋人を抱き寄せるのか。あの唇はどんな道筋をたどって裸身の上を這い、官能の息吹をくゆりたたせるのか。  両の掌で耳をふさいだ。眼鏡が躍るほど激しく首を横に振った。  だが、逆効果だ。ボクサーブリーフの前立てが、くびれを掃きあげる形になったはずみに快感の波が押し寄せてきた。  タガが外れた。震える指でスウェットパンツとボクサーブリーフをひとまとめにずり下ろすと、それすらまだるっこしげに茎がまろび出た。早速、握ると(いただき)に露を結ぶ。 「……ん、ん」  一滴、二滴と蜜がにじみ、ぬめりを助けに指を蠢かす。蛍光灯に照らされて、穂先が淫靡に濡れ光る。浅ましいありように嘔吐(えず)き、そのくせ、ひとしごき、ふたしごきした程度で爆ぜそうになった。  眼鏡をむしりとった。部屋全体がおぼろに霞み、逆に神経が研ぎ澄まされる。裏の筋を指でなぞると、いちだんとしなった。いかがわしい水音が足の付け根にくぐもり、それになおさら興奮した。 「ん……は、ぁあ……」  唇を嚙みしめるそばから、あえぎ声が口をついて迸る。足をくの字に立てた。片手で茎をあやし、もう一方の手で蜜の袋を撫で転がしながら、雫にまみれた孔を爪繰った。

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