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第37話

   ただでさえ紺野に負い目があるために強気な態度に出づらい。彼を何度も欲望の捌け口にしたくせに今さらカマトトぶるのは滑稽なだけで、どんな魂胆があるのか知らないが、暴力を振るわれない限り好きにさわらせておけばいい。 「運動して汗をかいて、その後はぐっすり。風邪の特効薬だ、一種の民間療法だと思ってリラックスするんだな」 「白を黒と言いくるめるのが上手いあたり、営業マンの鑑ですね……くっ」  手が秘部に分け入り、じかに握りとられた。包皮をむき下ろされると、嬉々として勃ちあがるゲンキンさが気恥ずかしい。 (紺野さんは、ひとりエッチのときもこの手順で……?)  ひと口にマスターベーションといっても、やり方は人それぞれだ。努めて冷静に分析しないと、流されてしまいそうになる。  生身の紺野は、妄想の中の彼より研究熱心だ。最初のうちはおっかなびっくり、茎の熟し度合いに応じて大胆さを増していく指づかいに溺れるな、というのが無理な相談だ。 「……ぅ、っ……」 「ためてたのか、えらく感じやすいんだな。ここをこうするのと……」  先端の丸みを指の腹でこね回された。 「こうするのと、どっちが好きだ」  裏の筋を軽くひっかかれた。腰が跳ねると、悦に入ったふうに、同じ道筋に波状攻撃を仕かけてこられた。   和毛(にこげ)をじゃらつかされると下腹部が甘やかにざわめく。ペニスは蜜をはらみ、先端が(みだ)りがわしく艶めいていく。 「ケチケチせずに声を聞かせろよ。男のをしごくのは正真正銘、初めてで、ぶっつけ本番でがんばってるのに張り合いがないだろ」 「そ……ん、な、ムチャぶり……ふ、っく」  紺野にとっては案外、RPGを攻略していく感覚なのかもしれない。穂先、茎の中ほど、根元を刺激するというぐあいに、メリハリをつけて官能の在り処を探りだす。  翻弄される。唇を嚙みしめても嚙みしめても、悩ましい声がこぼれ落ちてしまう。  蜜も同様で、とめどなくにじむ。茎全体にぬめりが塗り広げられるにつれて、指さばきがいっそうリズミカルになった。細腰(さいよう)は独自の意思を持ったようにくねり、鞍さながら尻を載せた太腿に渦巻き模様を描いた。 「へえ……先走りの量にも個人差があるんだな。俺はこんなにベタベタにならないぞ」 「体質の問題なんだから仕方ないじゃないですか……ぁ、あ!」  鈴口をつつかれて蜜が泡立った。そこに狙いを定めて爪繰られるたびにくちゅくちゅとさざめき、卑猥な水音が快感を増幅させる。 (おれは、好き者だったのか……?)  妹尾は薄く嗤った。紺野の意のままにあられもない姿をさらすだなんて、トチ狂ったとしか思えない。それでいて催眠術をかけられたように強弱をつけて蠢く指に魅せられて、足の付け根から片時も目を離せない。

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