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第39話

   昇りつめるのは時間の問題で、なのに懸命に抗うさまに焦れた様子だ。紺野が眉根を寄せた。耳の穴を舌でくじりたてながら、 「強情っ張り、イケよ……」  すこぶるつきに婀娜っぽい声で囁いた。 「ん、あ、ぁあっ……!」  どくん、と茎が脈打った。その瞬間を狙い澄まして鈴口を爪でこそげられると、ストッパーが弾け飛ぶ。妹尾は咄嗟に茎の根元を握りしめた。その甲斐もなく、淫液が轟々と出口に押し寄せる。  瞼の裏を閃光が走った。その直後、全身をがくがくと震わせながら、茎をくるんで離さない手の中に放った。 「しょっぱいというか苦いというか。癖の強い味だな」  紺野は白濁にまみれた掌をひと舐めして、なんともいえない表情(かお)をした。  あわあわと唇がわななき、だが言葉にならない。妹尾はワイシャツをかき合わせざま飛びのき、ところがスラックスの裾を踏んづけて尻餅をついた。 「丸見えだぞ、絶景だな」 「……冗談を言うのは後回しにして、さっさと手を洗ってきたらいかがですか」  はぁい、と紺野は素直に指図に従った。そして首の骨をこきこきと鳴らすと、流し台に寄りかかって煙草を咥えた。 「一説によると、射精にともなう消費エネルギーは百メートルを全力疾走したさいのそれに相当するらしい。ほどよく疲れて爆睡まちがいなしだな」 「紺野さんのチャレンジ精神にびっくりしすぎて、風邪なんか吹っ飛びましたよ」  突っ慳貪に答えると、身じまいを整えるのもそこそこに煙草に手を伸ばした。しかし秘部に甘だるい余韻が残っているせいだ。茎が下着にこすれると、むず痒さが快感に変じてまた頭をもたげる気配を見せる。おかげで、パックから一本抜き取るにも手間取る。  おまけにニコチンが肺に行き渡ったとたん、腹の底で笑いの虫が蠢きはじめた。ひとたび噴き出すとタガが外れて、げらげら、ひいひいと嗤い、平手で畳を叩く合間に紡いだ。 「おれもね、いちおう新婚生活に夢をもっていたんです。このソファでエッチになだれ込むことがあるかも、くらいのことは考えましたよ。それが同性にシモの世話をしてもらうだなんて衝撃の展開です」 「ものは考えようだ。強烈なやつで上書きされれば、黒歴史がらみの記憶は薄れるだろ。つまり結果オーライだ」 「おれの辞書ではそれを詭弁を弄するというのですが、ご面倒をおかけしたのは事実です。とりあえず、お礼を言っておきます」  妹尾は居住まいを正したうえで頭を下げた。紺野は畳に胡坐をかいてソファにもたれた。

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