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第48話

   肩に手が置かれた。まじろぎもしないで見つめる先で喉仏が上下して、しかし肝腎の返事は奇声にかき消された。  火薬の臭いが鼻をつく。見れば、男子中学生とおぼしい一団が公園にたむろしていた。スケートボードですべり台を滑走しながら爆竹を投げつけ合うわ、チューハイの空き缶や吸殻をそこいらじゅうに投げ捨てるわ、砂場に放尿するわと、やりたい放題だ。 「くそっ、ムードがぶち壊しじゃないか」  紺野は頭を搔きむしった。車止めを跨いで公園に入っていくと、リーダー格らしき大柄な少年のもとにずんずんと歩み寄った。 「赤ちゃんや病人がびっくりして起きたら可哀想だろうが。夜中に騒ぐな。脳みそがあるなら、少しは想像力を働かせてみろ」  ドスの利いた声でそう一喝すると、金色にブリーチされた頭を鷲摑みにして前後に揺さぶった。  酒が入って気が大きくなっているうえに、その場のノリで暴走しやすい年ごろだ。仲間の面前でたしなめられたとあって、リーダーの全身に殺気がみなぎった。あどけなさの残る顔をゆがめて紺野を睨み返しながら、ナイフを持っている、とハッタリをかますふうにポケットをまさぐった。  多勢に無勢だ、と妹尾は蒼ざめた。少年たちがもしも紺野に一斉に殴りかかっていけば、流血の惨事は免れない。  ところが格の違いがものを言った。数を頼みに紺野を袋叩きにするどころか、威厳に満ちた態度に恐れをなしたとみえる。仲間たちは、紺野とリーダーを遠巻きに眺めるのみだ。 (おれでも猫の手くらいにはなるか……)  妹尾は紺野と隣り合って立った。刑事ドラマでいえば威し役とコンビを組む、なだめ役を任じるふうに。  そして、ことさら柔和な笑みを口辺に漂わせて、少年たちを順繰りにひとりひとり見据える。とりわけもじもじした子に視線をそそぐと、彼はバツが悪げに煙草を踏みにじった。  ただしリーダーは、ますますいきり立つ。 「ウゼェな、おっさん。どっか行け」 「ベタな科白だなあ。シモの毛はちょぼちょぼで皮かむりのくせに、デカいツラするな。ガキは家に帰って宿題をやって寝ろ。あと、ごみは各自家に持って帰れ」    妹尾は右の手首をさすった。紺野に摑まれて痣ができたさいの記憶をたぐりながら。 (紺野さんは握力が強いから……)  現に、しなやかな五指は頭蓋骨をへこませる烈しさで、金髪頭をがっちりと締めつけて離さない。 「人権侵害だ、てめぇ、ぶっ殺すぞ!」  リーダーは、しゃにむに身をよじった。闇雲にパンチを繰り出し、 「どこを狙ってるんだ。そんな、へなちょこパンチじゃ蚊だって殺せっこない」  ひらりひらりと紺野がかわすと、猿のようにキィキィとわめき散らした。 「へなちょこなんて死語中の死語です。それはともかく一応、110番しておきました」  妹尾は鹿爪らしげにスマホを掲げた。それはブラフだが、リーダーを除く少年たちは不安げに顔を見合わせた。

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