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第62話
と、語勢を強めてネクタイをほどき去ったものの、衿がたくれてアンダーシャツがちらつくと、胃がでんぐり返りそうになる。
自分で胸をはだけるのはやはり難易度が高い、と断念した。代わりに引きちぎる勢いで袖口のボタンを外す。
びくびくしながら肝だめしに行けば、電信柱の影ですら幽霊に見える。あれと同じ原理だ。予防接種にしても恐怖心が頂点に達するのは、注射をする箇所を消毒綿で拭き清められたときだ。本番は、針がちくりとする程度だ。
(おれのほうが年上なんだし……)
イニシアティブをとるくらいでなければ男がすたる、と自分を鼓舞する。だいたい紺野の思惑通りに事が進んでばかりなのは、面白くない。大丈夫、男同士のセックスについて一応、知識はある。紺野のそれを頬張るのは無理でも、しごいてあげるくらいなら……。
その場面を想像すると眩暈に襲われた。それでも妹尾は、シャツの裾を引っぱり出した。ぐにゃぐにゃする足を励まし、へたり込みそうになりながらも、ローテーブルの傍らをすり抜けて洋間に入る。
鮫がうようよいる海に飛び込むような思いでベッドの手前まで歩 を進め、だが、そこで足がすくんだ。うなじに視線が突き刺さり、肩越しに振り返ったせつな、双眸に狂おしい色をたたえた顔を見いだした。
血の気がひき、腋窩 に冷たい汗がにじむ。妹尾は深呼吸をした。紺野から絶対に目を離すな、と丹田に力を入れて一語、一語、嚙みしめるように言葉を継いだ。
「おれは、したい。紺野さんは、おままごとみたいな関係で満足なんですか」
「愚問に決まってるだろうが」
骨も砕けよ、とばかりに抱きしめられた。顎を掬われて仰のき、唇が重なってくるのももどかしく、ついばみ返しにいく。
首筋に腕をいざなわれて、ぎゅうっと巻きつけた。舌でくすぐられるのを待ちかねて結び目をゆるめ、迎え撃つように舌をからめていくと体温が急上昇した。
くちづける角度を変えて貪り合うごとに、甘みを増しゆく吐息が唇のあわいをたゆたう。唇のやわらかみも誂えたようにしっくりくる反面、鼻梁に押しひしがれて眼鏡ががちゃつくのが興醒めだ。
妹尾は邪魔っけなそれをむしりとりがてら、
「紺野さんはタッパがありすぎて、首が、疲れます……」
キスを一旦ほどくと、つっかい棒を支 うように背中に手が添えられた。その手が脊梁に沿ってワイシャツを掃き下ろしていくにしたがって、下腹部が甘やかにざわめきはじめる。ペニスがたちまち萌し、サカりがついたようにさもしげな反応ぶりが恥ずかしい。
妹尾は反射的にもがいた。その直後、はんなりと微笑 った。太腿をかすめる紺野も刻々形を変えつつあって、どっちもどっちだと、おかしくなった。
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