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第63話

   躰がかしいだ。天と地がひっくり返った、と思ったときにはベッドに押し倒されたあとだった。 「がっつかないでください……!」 「今、がっつかなくて、いつ、がっつく」  ワイシャツの衿に手がかかった。割り開かれたのにつづいて、アンダーシャツがたくしあげられた。  胸があらわになった。妹尾は咄嗟に衿をかき合わせようとした。それに先んじて乳首をつままれた。 「……んっ!」 「ここ、自分でいじったことがあるか」 「あるわけありません……ぅ、っ!」  今度は、ついばまれた。さらに舌で掘り起こすようにねぶられると、可憐な粒はいじらしげに顔を出す。ほのかに尖りゆく輪郭が、雪肌にあえかに影を落としたところで指の腹でこね回されると、その微かな振動が下腹部に響いた。  躰の芯で蕩けだすものがあった。ペニスが下着を押しあげるのに比例して、妹尾は(まなじり)をつりあげた。  体格の差にものを言わせて受け身の立場でいることを強いるのは、卑怯だ。女扱いされるのは御免だ、と盾のように堅い胸に両手をつっぱった。 「公平さを期してジャンケンで決めませんか。つまり、その……上になるか下になるか」 「却下。『あんあん』言うのが似合うのは、どこからどう見ても妹尾さんのほうだ」 「誰が『あんあん』ですか、誰が……!」  柳眉を逆立てても、乳首を舌でつつかれると腰がもぞつく。育ちぐあいを確かめるように前立ての上からペニスの輪郭をなぞられると、スラックスの前がいちだんと窮屈になる。そこが感じる性質だったのは妹尾にとっては誤算でも、紺野にしてみれば僥倖(ぎょうこう)だ。 「謹んで開発させてもらうからな」  という前置きどおり、ふやけるほどに丹念に舐めころがされたあとで、左の乳首も同様にしこらされた。 「ぷくっとなって、舐めやすくなった」  くり、と乳嘴(にゅうし)を二本の指ですり合わされた。 「後学のために訊いとこう。右と左のどっちが感じる」 「知りません……ぁ、あっ!」  妹尾はブランケットに顔を埋め、そこで、はたと気づいた。なすがままでいること、という法律はない。  襟首を摑んで、紺野を胸元から引きはがした。頭をもたげさせてキスを仕かけていき、舌を搦めとる。そちらに注意をひきつけつつ、胸と胸の間で揺れ惑うネクタイを抜き取った。返す手でワイシャツのボタンも外した。 「脱がせて、スケベ」  照れ隠しにおどけてみせるのだとしても、おねえキャラ風のシナを作るさまが癇にさわる。妹尾は紺野の下から這い出すと、逆に馬乗りになった。胴体を両の太腿で挟みつけながら、宣言した。 「おれが紺野さんをかわいがる番です」  起き直ろうとするのを突き飛ばしておいて、躰を前に倒した。とはいうものの快感を与えることを前提に同性に触れるのは生まれて初めてのこと。もちろん、予習などしていない。迷ったすえに紺野のやり方を参考にすることにした。

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