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第64話
試しに、淡い褐色の乳首を唇の上下で挟んでみた。軽くかじったせつな、鳩尾 にさざ波が走った。
方向性は正しい、と妹尾は大胆になった。胸元をふりだしに筋肉が描き出す稜線に沿ってずり下がっていき、へそのぐるりを舐める。ところが、おっかなびっくり下肢に手を伸ばすとそこは微妙にやわらかくなっていて、上目づかいに紺野の様子を窺えば、
「くすぐったくて萎えた。駄目だ、降参」
抗議する暇もあらばこそ。いとも簡単に再び組み敷かれた。
「妹尾さんのリードでエッチになだれ込むとは、奇蹟の展開だ。今夜は気持ちを知ってもらえば上出来だと思ってたんだぞ」
舌を根こそぎにするようなキスを交えてそう言われ、臨戦態勢に入った雄の目つきに怖気づく。上体をよじりざま紺野を突きのけようとしたが、ブランケットが足にからむ。じたばたしている間にスラックスが乱され、下着とひとまとめに蹴り脱がされた。すかさず茎に掌がかぶさってきて、包皮をむき下ろされると、それは嬉々として蜜をはらんだ。
「順番を守って、おとなしく可愛がられてください……!」
「先っぽ、濡れてるな。前も思ったけど感じやすいよな」
「……体質の問題です。いちいちコメントするのは悪趣味です」
「借りは作らない主義だったな。だったら、俺のも頼む」
ジ……とファスナーが下ろされる音が、雷鳴クラスの轟きようでもって鼓膜を震わせた。ボクサーブリーフがずらされるさまに魅せられて動けないでいるうちに、猛りが摑み出された。
手が股間に導かれた。シルクのようにすべらかなものに指が触れたとたん、汗がどっと噴き出した。手を引っ込めたい、だが紺野を慈しんであげたい。ありったけの勇気を奮い起こしてカリをひと撫でしたものの、まごつく。
乳首が感じるポイントか否かと同様に、快いと感じる力加減も人によって異なるはず。平台をめぐる争奪戦で他社の営業マンをだしぬくとき以上の難問を突きつけられた気分だ。自分にちょうどいい強さでしごいて、くすぐったいと、またもや不評を買ったら今度は確実に逃げ出す。
それに体軀の優劣は、それの寸法にも比例するのかもしれない。基本的な形状は妹尾と同じだが、紺野のそれは長さ太さともに格段に勝り、劣等感を刺激されたあげく、こんなことを口走ってしまった。
「紺野さんの場合、勃起するにあたっては相当な量の血液が海綿体に流れ込むのでしょうね」
「言葉攻めで仕返しとは、ドSだな。俺がドMとくれば割れ鍋に綴じ蓋だが、焦らすのはなしだ」
けしかけるふうに、あるいはレクチャーするふうに、茎を握りとられた。妹尾は肚をくくった。
強ばりがちな五指を親指から順番に折り曲げていき、怒張を握って返す。ところが、いったん指が剝がされた。裏の筋が合わさる形に二本まとめて握らされ、その上からひと回り大きな手にくるまれて、あやすように促される。
「どくどく、言ってます……」
「好きな人を抱いているんだ。興奮しなきゃ、嘘だ」
薄めと濃いめの草むらが、それぞれ相手のそこをブラッシングする感触にそそられた。妹尾はこころもち膝立ちになって、互いの腰が同じ高さにくるように調節した。
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