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第67話

 屹立がいちだんとみなぎり、脂汗に濡れた額に前髪が張りつく。すると紺野は耳許に唇を寄せてきて、鹿爪らしげに唱えた。 「ちちんぷいぷい痛いの痛いの飛んでいけ」 「何事も人生勉強です。せっかくだからポジションを代わってみますか……んっ!」  滅相もない、と紺野が瞼にくちづけてきた。そこをふりだしに、血の気の失せた顔中にキスの雨が降る。圧倒的な量感に徐々になじんでいくにつれて、紺野を奥殿にいざなうように内壁にうねりが生じはじめた。頑なだった花がやがて咲き匂い、ず……と、そこに(つるぎ)が攻め入ってくる。  数ミリ、また数ミリと征服される。下肢はすでになかば痺れ、その中にあって道を切り拓いていく紺野の存在がリアルだ。命綱にすがりつくように、たくましい背中に巻きつけた腕がすべる。  苦しい、もう駄目だ、目がちかちかする……。それでも交わりを深めるべく、自ら腰を浮かせた。 「っ、ぁ、あああ、くぅ、ふっ……!」 「もうちょい、あと三センチくらいだ」    ずん、と躰が真っ二つに裂けてしまいそうな衝撃にみまわれた。ファスナーが双丘にこすれて、ちくちくする。それで妹尾は、切っ先が深みに到達したことを知った。  どくん、どくんと猛りが脈打つのに合わせて内奥が狭まり、紺野の形を忠実に写し取る。彼我の肌の境目さえアヤフヤになるほど分かちがたく結ばれる。それは、至上の喜びだ。 「美味しいということは、即ち幸福だということだ」 「……なんの、呪文です、か……ん、ん」 「うちの社訓。妹尾さんの(なか)がよすぎて、三こすり半でもっていかれそうなんだ。暴発防止によけいなことを考えてコントロールしてる」  それを聞いて、妹尾は皮肉たっぷりに眉を上げた。息も絶え絶えのこちらにひきかえ、ワイシャツを脱ぐ余裕があって憎ったらしい。ゆえに、苦しみは分かち合うものと、ぎこちないなりに意識して後ろを引きしぼった。 「ちぎれる、折れる」  紺野が呻くと溜飲が下がり、それもつかのま、しっぺ返しを食らう羽目になった。乳首を甘咬みされると、柔壁が灼熱の塊をもっちりと包み込む。すると、それがいっそう勇み立って最奥を突いてくる。  膝の裏に手がかかった。両足がVの字に割り開かれて、左右それぞれの肩にかつがれる。前哨戦のように、ゆるやかに律動が刻まれるにつれて花芯が紺野にじゃれつき、はしゃぐようだ。 「俺の、いい仕事してるか?」  うなずけば茎に指がからむ。内と外から甘く淫らな摩擦が加えられ、妹尾は、お返しに愛情たっぷりに喉仏をかじった。 (二度と恋なんてしないはずだった……)  はんなりと微笑(わら)った。古代の蓮の実だって丹精すれば芽を出し、花を咲かせる。恋に破れて痛手をこうむった心も同じだ。傷を癒やしてくれるものは混じりっ気なしの恋で、恋は生きる糧なのだ。  降誕祭を寿(ことほ)ぐように、東京タワーのシルエットがくっきりと浮かびあがる。緋色にまたたく飛行機への警告灯は、紺野が妹尾に捧げた紅薔薇を空中に飾ったかのように美しい。唇がふやけるまで繰り返しキスを交わして、恋人になった最初の夜を祝った。

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