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第25話※ 玖月

明日も仕事だけど、まだ時間的には遅くなく寝るには早い。まだ飲みたいなと思う気持ちはあるが、岸谷のことを考えると今日はもう終わりにしようと考える。 「優佑さん、明日も仕事でしょ?今日はもうおしまいにしましょう。ほら、また週末にでも」 「仕事がバタついてて、今週末はどうなるかわかんないからなぁ…もしかしたら会社に出るかもしれないし」 まだ飲みたいと岸谷も思っているようだった。だが、玖月は笑いながら飲み終わったグラスを取り上げ、キッチンに持っていく。 明日は雨になりそうだから、ひまるの散歩も難しい。部屋の中で遊ぶのか、雨が降る前に散歩に行こうか、どうしようかなと玖月は考えていた。ひまると遊べるのもあと少しだから、いっぱい遊んであげたいと思う。 「じゃあ…玖月、送るよ」 キッチンに入ってきた岸谷が玖月に向かって手を差し出してきた。部屋に帰る合図だ。 「はい」と返事をして笑いながら手を上に重ねる。この行為は毎日のことなので、最近は二人とも慣れてきている。 でも、相変わらず部屋までの間はドキドキとしてしまう。部屋が遠くにあって中々到着しなければいいのにと毎日思ってしまう。 まだ一緒にいたい、でも明日は仕事があると気持ちが揺れ動きながら歩いていると、すぐ部屋に到着した。これも毎日のことだ。 このまま部屋の中に入れば、岸谷の遠ざかる足音を息を潜ませてドアの前で聞き、その後は眠るだけ。それもいいけど、それだと少し寂しい。 「えっと…」 「うん…」 いつものことだが、ドアの前に来るとお互い言葉も中々出てこない。まだ岸谷も一緒にいたいと思ってくれているのだろうか。 もうすぐ岸谷との生活も終わる。こんなに長く他人と一緒に生活したことはない。それに、こんなに楽しく他人と生活したこともない。 会えなくなる日はいつだろう。 急にその日は来るのだろうか。 マスクの上から不意打ちにキスをされたり、毎日笑い合い、ベッドルームの前まで送ってくれる日々が終わってしまう。 玖月は出来ることが増え、考えて行動することも増えた。一緒にいると自分が正しく強くなれた気がした。一人前になった気もした。 岸谷が教えてくれたことは沢山あるが、まだ足りない。いつの間にか、欲張りになっている。 会えなくなると思うと、二人で過ごす時間が長く続いて欲しくて焦ってしまう。胸の真ん中がギュッと締め付けられる思いをする。 どうしよう。 そういえば…と急に思い出した。思い出したこととは、今日はキスをされていないということ。 毎日キッチンに入っている時、一度はキスをされている。だけど、今日はタイミングが合わずキスはなかった。 部屋着のポケットにマスクが入っている。 玖月は自分のベッドルームのドアの前で、それを取り出して、そっと着けてみた。 マスクを着けたことで、キスができるタイミングを玖月から作っている。 自分が考えて行動に移したことは大胆なんだろうかと、ドキドキとしてしまう。 だけど、自分から岸谷にキスをすることはできないでいる。マスクを着けた玖月は、岸谷が行動するのを待っているだけだ。 玖月のベッドルームの前で、急にマスクを着け始めた玖月を見て岸谷は驚いたかもしれない。 今、彼はどう思っているだろう。 部屋に入り、後は寝るだけなのに、ここで急に潔癖症が出てしまったか、とでも思ってるだろうか。心配させてしまうのだろうか。 そう頭の中では次々と考えが巡る。勢いでマスクを付けた自分の考えが唐突すぎて、岸谷は呆れているかもしれない。怖くて顔を見れず玖月は俯いてしまった。 それでも… 岸谷ならわかるはず。 玖月は自分の行動にかけていた。 キスをしたい。 してもらいたいと強く思っている。 毎日していることだからではない、潔癖症を治すためではないと、玖月はもう気がついている。 自分の気持ちはわかっている。 岸谷のことが、好きだということ。 マスクを着けたのはその意思表示だ。 出来ればマスクを外してキスをしてみたい。それくらい毎日岸谷とのキスを想像していた。 だけど、自分からキスを誘っているのは恥ずかしい。そもそもマスクを着けたことで、キスをしたいということだとわかってくれただろうか。考えはぐるぐると回る。時間も長く感じられた。 玖月は下を向いたまま俯き顔を上げずにいる。このまま、おやすみと言われてしまうのかも。岸谷が困っている顔をしているのなら見たくはない。 やっぱり、こんなことやらなきゃよかったと後悔した時、岸谷がドアノブに手をかけながらキスをしてきた。 マスクの上からキスをされ、背中を抱えられ後ろ歩きで部屋に入った。ドアは岸谷が開けてくれていて、一緒に部屋に入ってくるのがわかった。 ガサガサというマスクの不織布の音が聞こえる。いつものキスと違い、少し荒々しい岸谷のキスからマスクがズレてきてしまう。 部屋に入ると、岸谷が後手でドアを閉めた音が聞こえた。岸谷の大きな両手が背中に回り、強く抱きしめられる。 「…んんっ、はぁ…んんっ」 マスクの中で自分の息が熱く息苦しさを感じる。角度を変えて何度もキスをされたから、片耳からマスクが外れてしまった。 ハラリと床にマスクが落ちる。 真っ直ぐに見つめられるから、恥ずかしくなるけど、目を逸らさずに見つめ返すと、唇が重なってきた。 熱い唇だなと冷静に感じている自分がいる。マスク越しではないキスは初めてだった。両手で岸谷の背中をギュッと強く抱きしめる。 岸谷の唇を直接感じた。抱きしめられることには慣れてきていたが、直接唇にキスを受けることは慣れてはいないため、ぎごちなくなってしまう。 だけどそれは、期待していた以上に気持ちがいい。もっとして欲しいと、岸谷の背中に回した手に力が入る。それが伝わるとキスも深くなっていった。 潔癖症であり、今まではマウスウォッシュをしないとキスは出来なく、チュッと唇を重ねただけのキスをしてきた。 それなのに今は、食べられるほどの痛いキスをされ、もっと欲しいと欲張りなように、その痛いキスを岸谷に求めてしまう。 「んっ、はぁ、んんっあぁん」 キスをして声を漏らしてしまうなんて初めてだった。自分の声とキスをしている音が部屋中に響いている。 「玖月…嫌じゃない?」 唇から頬にキスが移り、耳から首筋にゆっくりと移っていく時に聞かれた。 「んん、あぁっ、やぁ、、いやじゃない」 耳や首筋に何度もキスをされると身体が熱くなり、気持ちがいいと知る。岸谷の熱い唇で首筋にキスをされるとビクッと身体が疼くのがわかる。 キスをしながらもつれるようにして、ベッドの上に二人で上がる。部屋の温度が一気に上がった気がした。 「玖月…」と名前を呼ばれ、上から覆い被さられる。唇を重ねながら身体を密着させていると、お互いの下半身が擦れあうのがわかった。 「ひゃっあああ…」 上から抱きしめられ、岸谷に腰をグリグリと押し付けられると、熱く硬いゴリっとしたものが自分の下半身に当たる。 それに、自分のペニスが勃ち上がっているのに驚く。 玖月自身は性に疎く興味がないため、あまり自慰行為もしない。潔癖症も手伝い、溜まったら出すくらいだ。出す行為すら億劫な時もある。 それなのに今日はペニスが痛いくらい勃ち上がり、興奮しているのが自分でもよくわかっていた。 岸谷も同じようだ。硬く勃起した岸谷のペニスが玖月の下半身にゴリゴリと当たるのがわかる。 「玖月、大丈夫か?このまま脱がしてもいい?」 キスをしたり、抱きしめられたり忙しいから、はあはあと、息切れをしてしまう。 声にならず、こくんと頷くとあっという間に部屋着を脱がされてしまった。 下着姿になった玖月の上で、岸谷もTシャツと部屋着のパンツを脱ぎ捨て、同じ様に下着姿になるのを下から見上げている。 自分と違う体格の、岸谷の身体をまじまじと見てしまう。鍛えているのか、筋肉質で腕も肩も大きい。 それと岸谷の下着に目を落とすと、大きな形がくっきりと浮き出ているのがわかる。 「玖月、嫌だったら言えよ?無理矢理することじゃない。玖月が嫌がることはしたくない」 これからすることは、わかっているが少し怖い。でも怖いと言い、止められてしまう方が嫌だった。 「優佑さん…」 「ん?」 再び首筋にキスをされているところを、呼び止めてしまった。止めて欲しくないから岸谷の首に腕を回し抱き寄せる。 「ん?どうした?怖いか?止めるか?」 「違う…止めて欲しくない。けど、変な声が出ちゃう」 「ははは…変な声じゃないぞ。俺に触られて嫌じゃないか?」 嫌じゃない。 それどころか気持ちよくてどうにかなってしまいそうだった。 そう言うと「それだけで嬉しく思うよ」と言いまた唇にキスをされる。 ここは嫌じゃないか?と聞かれながら胸にもキスをされる。そんなところまでキスをするなんて知らなかった。 「はあっ、やぁっ、んんっ…」 胸にキスをされて乳首を舌で転がされるとまた声が出てしまう。抑えようとしても出てしまう声が恥ずかしい。自分はこんな声を持っていたなんて。知らない。どうにかなりそうとまた呟く。 「堪えないで声出していいよ。君の声も、ここも可愛いな…俺もどうにかなりそうだよ」 ここも可愛いと言われ胸にキスをされる。必要以上に乳首を吸われたり、噛まれたりするから、ツキンとした痛みが身体中に響く。痛みが気持ちいいなんて知らなかった。 「優佑さん…」 「ん?」 首筋にキスをしながら、腰を押し付けられる。ゴリゴリとしたもので強く刺激されるから、下半身がムクムクと勃って硬くなっていく。押し付けられる度に射精感が高まっていった。 「優佑さん…名前を…呼んでいてもいい?」 「ああ、いいぞ。俺の名前を呼んでくれ。ヤバいな…玖月が可愛くてたまんない」 名前を呼んでいたい。名前を呼んでいいと言ってくれるなら、ずっとずっと呼んでいたい。気持ちが高まる度に、あなたの名前を呼んでいたい。 最後までやらないから安心してと言われる。最後までとは、挿入することだろう。男同士で抱き合っているが、玖月は岸谷に抱かれたいと思っている。それは自然な流れだった。岸谷自身を受け止めたいと思うが、経験がない分まだ怖い。 「玖月?最後までしないけど、ここ触ってもいい?」 触っていいかと聞くのと同時に、ツーっと下着の上からペニスを指でなぞられた。 「はあぁっっ、、やっ、ん…」 なぞられただけでタプんと少し精子が漏れてしまった。こんな刺激的なことはしたことがないから、堪えられない。身体もビクビクと波を打ってしまう。 「ゆ…優佑さん…はあっ、堪えられない」 「ああ…俺もちょっと堪えられない。嫌なら止めるから言えよ?俺のと一緒に擦るぞ?」 素早く下着を脱ぎ捨てた岸谷が、玖月の下着に手をかける。岸谷の下半身からはダラダラと大量の先走りが垂れているのがわかる。玖月の下着の上にも垂れてきている。 「優佑さん…」 「嫌じゃないか?気持ち悪くない?」 ひとつひとつの動作を確認される。潔癖症の症状が出ないか、岸谷は心配しているが、玖月は、コクコクと頷くことしか出来ない。 岸谷は躊躇せず自分と玖月のペニスを合わせて擦り始めた。岸谷の大きな手で覆い、二人のペニスを、ぐちゃぐちゃと擦り上げている。岸谷のペニスは大きく、先端からダラダラと先走りが流れ出ていて、玖月のペニスにそれがかかっている。 勃起している他人のペニスを見たのも初めてであれば、他人に触られ、自慰行為をされるのも初めてだった。 付け根からぴったり合わせられていて岸谷の熱を感じる。そして声を抑えられないほど気持ちがいい。 本当は、マスクを外してキスをした時から、岸谷を感じていたくて、触れて欲しくて、たまらなくなっていると伝えたい。 だけど余裕がなく、高い声しか出ないから、その代わりに玖月からも岸谷の肩や首にキスをした。 この気持ちをわかって欲しい。 伝わって欲しい。 「こんな時に言うのはズルイってわかってるけど…」 岸谷は、玖月と自分のペニスを握りしめ、ぐちゃっと大きくゆっくり擦る。焦らされているようだ。 「俺は君のことが好きだよ、玖月」 「えっえっ…今…?」 「だよな…タイミング間違えたか」 笑いながらキスをされる。唇を使い噛みつかれそうなキスだ。胸がギュッと締め付けられる。心臓もドキドキと忙しい。 そのキスが深くなるにつれ、岸谷の手も二人のペニスを強く速く扱き始めた。 「優佑さん…だ、め。出そう…んんっ、やああぁぅっ」 ぐちゃぐちゃという音が聞こえる。自分ひとりで自慰行為をしている時だって、こんな音はしない。 二人のペニスをあの大きな手で上下に動かすから出る音なのか。岸谷の先走りの量が多いから音が大きく聞こえるのか。 それにしても、岸谷に触られるとすぐに達きそうになってしまう。気持ちいい時間は少しでも長引いて欲しい、終わって欲しくない。だけどもう限界だった。 「あっ…ああうんんっ、優佑さん…だ、だめ。出ちゃうっんんっ」 「はっ…はぁ…ヤバいな…俺も」 岸谷が腰を押し付け、グリグリとペニスを擦り合わせる。岸谷から聞こえる息遣いに興奮してしまう。 二人のペニスを上から手で押さえつけ、岸谷は腰をグラインドさせている。セックスを想像させる疑似行為だ。グリグリと大きく腰をグラインドさせていたが、今は激しく腰を振り叩きつけてくる。 「優佑さん…優佑さんっ…ああん」 岸谷の汗が玖月の身体に落ちてくる。熱い汗が乳首にも落ちた。急な快感が身体に走り、気持ちがいい。 「やっあああんん、、ひゃあっっああ、だ、だめ、で…るっ…」 「はっ、はっ…くっ…玖月…俺もだ」 ドクドクと音を立てるように、岸谷のペニスから大量の精子が玖月のお腹にかかった。同時に玖月も射精し、岸谷のペニスに精子をかけてしまった。

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