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第39話 玖月※
元々ここまで知尋に連れて来られたから、玖月の荷物は少ない。さっさとに荷物をまとめてリビングまで戻り、そのまま陽子と知尋に見送られ、玖月は実家を後にした。
「あー…緊張したなぁ」
帰りの車の中、運転席からかなり大きめな独り言が聞こえてきた。
「優佑さんでも緊張するんですね。僕も何か言われるんじゃないかってずっと身構えてました。ちー兄は…まぁ、あんな感じだとは思ったけど、陽子さんがなぁ、なんで、最後にあんなこと言ったんだろう」
「言われちゃったなぁ〜…あれはさ、玖月にしか選択権はないってことだよ。玖月がNOって言ったら絶対俺は従わないといけないってこと。だから、万が一玖月の方から別れたいって言い出したら、俺が嫌だ!って言っても別れること。嫌だという権利はお前にはない。だからお前よ〜く肝に銘じろよ!そうならないように、必死で大切にしろ!って言われたんだよ」
「ええーっ、そんな意味だったの?全然わかんなかった。何、それ…もう、うちは母さんにしろ、兄にしろ何だか過激なんでしょうか。ごめんね、優佑さん」
「なっ?君は大切に育てられたんだよ。得体の知れない俺が、玖月を掻っ攫っていくんだから、しょうがないよ。認められるように頑張る。時間がかかってもね。ちゃーんと、君を大切にしているってわかってもらわないとさ」
運転している岸谷の横顔を盗み見る。晴れ晴れしているような、清々しい顔をしている。色々、頑張ってくれたなと思う。
車の中で時計を見ると、まだ夜になって間もない時間だ。ここから岸谷の家まではそんなに遠くない。すぐに到着するだろう。家に帰ったらリラックスしてもらいたいと玖月は考えていた。
「でもなぁ、玖月が強いってわかったよ。兄弟喧嘩を見せてもらったし」
はははと声を上げている。思い出すと少し恥ずかしかった。
「だって…失礼なんだもん。何も知らないくせに頭ごなしに色々言うから。ちー兄は頭がいいから、言い負かされちゃうと思って必死だったんです」
運転席から伸びてきた手は、ぷぅっと膨れている玖月の頬を撫でた。
「そんなこと言うなよ。知尋くんの気持ちもわかるぞ。大切な弟を取られたってこともあるだろうし…」
「そんな庇うようなこと…」と、言いかけて『ん?』と思い出した。
玖月が荷物をまとめている間、岸谷と知尋と陽子はまだリビングのテーブルを挟み座っていた。何か会話をしているようであったが、内容まではよくわからない。
だけど途中で知尋が「あれどうだったんだよ。上手くいったのかよ」と、岸谷に聞き
「ああ、上手くいった。ちょっと焦ったけどな、結果、上手くまとまったよ」と、岸谷が答えていた。
「優佑さん…途中、ちー兄と何か話してませんでした?上手くいったとかどうとか聞こえてましたけど」
「ああ、あれな!アメリカのサブスクリプションサービスにうちの酒を入れてもらうことになって、その件でアメリカまで急遽出張したんだけど、途中でさ、契約時期がちょっと違うとかトラブルになって…知尋くんに毎日メールしてたから、そのことを愚痴っちゃったんだよ。日本に帰る日が伸びちゃったから…そしたら、その仕事の件だけはきっちり応援してくれるって返事くれてさ。なんか、ウケるよな、っていうかすげぇな知尋くんって思って、ちょっと感動しちゃったよ。プライベートでは嫌われてても、仕事は応援してくれるんだもんなぁ…あっ、それで、今回は広告デザイナーの木又さんにもアメリカで助けられたからなぁ。色んな人に世話になっちゃったけど、上手くいったんだ。契約も無事にできて、アメリカのサブスクにも入れてもらえたよ」
「えっ…?ちー兄と二人で違う話もしてたの?っていうか、相当仕事大変だったんですね。帰ってくる日も伸びるなんて」
「ああ、うん…こんなにメールばっかり送ってきて、ちゃんと仕事してんのか!って知尋くんが言うから、俺だって仕事は大変なんだぜ!って言ってトラブルを愚痴ってた。全部終わったら玖月に会わせろよってメールしたら、それとこれは別だってさ」
あははと笑っている岸谷の横顔を眺める。
知らなかったとはいえ、仕事でそんな大変な時に、随分負担をかけていたかもしれないと思うと居た堪れなくなる。
「優佑さん、忙しい時に僕のことも重なってごめんね」
「俺のプライベートは別だよ。玖月のことは絶対見つけ出して、会ったら離さないって決めてたし。だけどほら、荒木さんと知尋くんに挨拶もできて、約束もしたろ?これで堂々と付き合っていけるな」
車がマンションの駐車場に到着した。
久しぶりの岸谷の家だ。
コンシェルジュを通ったら、荷物が届いていると連絡を受けた。岸谷は「おっ!届いたか!」と嬉しそうに受け取っていた。
ドアを開ける前に「今日からどうぞよろしくお願いします」と玖月が伝えると、岸谷は嬉しそうに目を細めていた。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。無事に玖月を迎え入れることが出来てよかった」と言われ、家に入る前にキスをされた。
◇ ◇
スーツケースをランドリールームに置き、コンシェルジュで受け取った荷物をキッチンまで持ってきた。
「なんでしょうか…」
箱に入った荷物だ。バリバリと楽しそうに岸谷がラッピングを破ると、お酒が数本出てきた。
「これはね、新作」
岸谷の会社の新作だという。
新しいお酒だ。その新しいお酒のネーミングも英語のようだ。ボトルも相変わらず美しい。
『You are my Boo 』と書いてある。あなたは私の…?Booって何だろうと首を傾げている玖月に、岸谷は教えてくれた。
「君は僕の大切な人って意味。うーん、大切な、愛しい人ってとこかな。新作だからこれから世の中に出すんだけど、これは俺から君にプレゼントだよ玖月」
「優佑さん…ありがとうございます」
俺の愛しい人と言いプレゼントされた。随分お酒は飲んでいなかったが、久しぶりに岸谷と飲みたいなと思う。それに、こんなくすぐったいプレゼントは嬉しくて、ドキドキとする。
「やっと…会えたな。長かった」
ぎゅっと抱きしめられ、近くで顔を見ることができた。
触れ合える。こんなに近くにいるとわかる。それが実感できた。
ゆっくりとキスをされた。玖月も岸谷を離したくないから、抱きしめ、キスを返す。マスクはもう必要なかった。
「疲れたな。風呂入ってさっぱりしたい。そうだ、一緒に入ってくれる?」
こくんと頷いたら、手を引かれバスルームまで連れて行かれた。
出張から帰ってきて、その足で玖月を迎えに来てくれた。岸谷は相当疲れているのではないかと、玖月は考えていた。できることなら、岸谷が望むこと全て、叶えてあげたいと思う。
大きなバスルームはあの日以来だ。岸谷と結ばれて、初めて一緒にお風呂に入った時以来。
本当に長かったなぁと、考えながらジャグジーの中では後ろから岸谷に抱きしめられている。玖月は後ろにいる岸谷に、寄りかかるようにして座っていた。
「優佑さん、これだと僕がリラックスしてる感じだから逆になりませんか?優佑さんが疲れてるのに、僕が優佑さんに寄りかかってるのは変ですよ」
「えー?逆になると玖月が潰れちゃいそうだろ?だからこのままでいいよ」
お湯の中でバシャバシャと動き、岸谷が楽な体勢をと考えるも、岸谷は笑いながら「あはは、動くなよ」と言い、ぎゅっとまた抱きしめられる。
「玖月…ずっとこう…君に触れたかった。会えなかったし、連絡も取れなかったし、毎日本当にヤキモキしたよ。だからこうしているのは、マジで夢のようだよ」
「僕も…やっと、優佑さんに会えて嬉しい。待っててよかった、本当によかった」
「遅くなってごめんな…俺の人生には君が必要だ。これからはもう離さないでいるから」
熱烈な言葉を投げかけられる。こっくり頷いて、後ろにいる岸谷に身体を預けた。
頬が、岸谷の肌に当たり熱くなる。それに気がついた岸谷は、優しく抱きしめてくれるが、岸谷の手はそう優しくはなかった。
後ろから回ってきた手は玖月の胸をくすぐる。人差し指と親指でくるくると両胸の乳首を撫でられ、久しぶりの快感に思わず声が出てしまった。
「ひやぁっ、ああん…えっ?優佑さん?」
「そりゃあさぁ…久しぶりだし?あれからおあずけ食らってたし?好きな子とこうなったら、仕方ないよな」
弁解を言葉にするが、岸谷の手の動きは止まらない。キュッと乳首をつねられて前屈みになると、後ろに固いものが当たるのがわかった。
「こっち向ける?俺の上に座って」
ぐるんと向きを変えられ、正面に岸谷の顔が見られた。ニカっと笑った岸谷はそのままキスをしてくる。ぐんとお腹に力強いものが当たっている。それは岸谷のペニスだとわかっている。
「あ、ん、っんん」
二人のペニスが擦れるから気持ちがよくて声が出てしまう。岸谷には、チュッチュッと顔中にキスをされている。
「玖月のお尻はかわいいな…」
両手でお尻を触られていると、それだけでも何故か気持ちがよくなってしまうが、岸谷の手はそこから先、後ろに伸びていった。
「今日はしないけど、いつかここに俺のを入れさせて欲しい」
玖月の蕾をくるくると指で撫でられ、耳元でそう囁かれる。ここにと言っている意味は知っている。
「しないの?今日は、しない…?」
「ええっ!いいの?していいの?」
岸谷の大きな声がバスルームに響く。そんなに驚かれるとは思っていなかったので、ビクッとしてしまう。
「えっ…だって、そこを使うって知ってますよ?優佑さんのを入れるんだろうなって想像してましたから」
「やべぇ…めちゃくちゃ勃ってきた。じゃあ、ちょっとだけいい?指を入れてもいい?ほら、お湯の中だったら広げても辛くないだろうし」
ぬるめのお湯は気持ちがよかった。
岸谷の指が躊躇せず、つぷんと入ってくる。思ったよりすんなりと入るんだなと玖月は感動していた。それに痛くない、もっと痛いかと思っていた。
岸谷の人差し指がズクっと奥まで入り、中でグニグニと動かしている。
「気持ち悪くないか?大丈夫?」
「うん…大丈夫。何か変な感じ」
「もうちょっと指を増やして入れてもいい?」
スルッと続けて指が入ってきた。少し圧迫される感じだが、岸谷のペニスを入れるとなると、こんなもんじゃないと思っている。
グニグニと岸谷の二本の指で玖月は中を擦られているうちに、ムズムズとした感覚をお尻に覚えてきた。
「優佑さん、なんか…ムズムズする」
「ん?どこ?ここかな…よくわかんないけど、違う?気持ちいいところあるだろ?」
「んっ、、んっ。えっと、…」
岸谷が指を引き抜こうとした時に、何かに当たり玖月は腰をビクッと跳ね上げた。
「ひっ、ひゃあっ、な、なに?」
「ん?ここか?これだな?」
岸谷がここだと、同じ場所を指の腹で擦ってくる。その場所を擦られると背中に快感が走るのがわかる。背中を支えられているけど、のけ反ってしまう。お尻に指を入れられて、気持ち良くなるなんて。
「やっ、やぁぁ、、優佑さん、ダメ」
「ヤバ…玖月。そんな顔するなよ。イキそうなら、イッていいぞ」
「ダメ、ダメ…優佑さんと一緒がいい、やっ…」
初めてそんなところに指を入れられたのに気持ちよくなり、射精しそうになってしまった。だけど、どうしても以前岸谷とした二人で擦る方法がいいと玖月は訴えた。
グニグニと動いていた指がズルっと抜けて、今度は二人のペニスが大きな手で捕まえられる。
「こっちがいいのか?一緒に擦られたいのか?玖月…俺の首に腕を回して、そう、そのままな、」
「ゆ、ゆう、すけさん…また、声が」
「ああ、気持ちいいな…声出していいぞ?名前を呼んでくれよ」
グイッと岸谷の首を引き寄せた。身体が更に密着する。ゴリゴリとした岸谷のペニスに擦られて、玖月のペニスも固く膨張してきていた。
「かわいいな、玖月…」
「はあ、ああ、優佑さん、」
玖月の腰が浮いてしまうと、片手で引き寄せられ下から岸谷の腰が押し付けられる。
お湯がかなり激しく波打っている。岸谷は手と腰を使って大きく激しく動き始めている。
「や、やぁ、優佑さん、ダメ、出ちゃう」
ひとまわり、多分ひとまわり大きい。そう感じるのは岸谷のペニスだ。
二人で合わせて擦ると気持ちいいと教えてくれた。いつか玖月も触ってみたい。今は余裕がないから無理だけど、好きな人のことは全て知っておきたい。
「ああ、ヤバい…イキそうだ。はっ、、」
「やああぁぁっ…」
片手で玖月を抱き寄せながら、岸谷はお湯の中で下から腰を何度か突き上げる。いつも優しく問いかけてくれるのに、この行為の時は少し乱暴で強引だ。
はっ、はっ、と息遣いが聞こえる。二人同時に射精した。
お腹にあったかいものがかかった気がする。気がするのは、お風呂の中なので、一瞬だけそんな感じがあったからだ。すぐに流れて溶けてしまったのかもしれない。
全力疾走した後のようだ。ひとりでするオナニーなんて比べ物にならないくらいにハードだった。身体が重く動かないが、お風呂の中は温かくて気持ちがいい。
眠くなる…
「おーい、玖月。寝るなよ」
「…はい、頑張ります」
お風呂の中で寝ないようにと、あの手この手で岸谷が話しかけてくれ、体を洗いシャンプーまでしてくれた。
◇ ◇
いそいそとベッドにバスタオルを何枚も敷いている岸谷を、ボケっと突っ立って眺めている。
「ほら、できたぞ」
真っ裸でベッドに入っている岸谷が、ぽんぽんと叩いている。ここに入るようにと。なので、岸谷の横に座り、おずおずと横になってみている。
「なんで!」
「何がですか」
なんで!と大きな声で言う岸谷は、それ、と玖月の腰に巻いているタオルを指さしている。
「ほら、バスタオルを敷いたんだから腰に巻いてるタオルは取ればいい。恥ずかしいんなら後ろ向いてればいいだろ?俺が後ろから抱きしめてやるから」
ギュイっとタオルを取られ、ポイっと投げ捨てられ全裸になってしまった。
確かにいつも全裸で寝ているが、それはひとりの時であり、岸谷の前では何だか恥ずかしい。急に恥ずかしく思うようになった。
「あはは、恥ずかしがる玖月はかわいいなぁ。お尻もかわいいぞ」
「もう、そう言うから余計恥ずかしくなるんです」
やっと二人きりになれた。他の誰もいない、本当の二人きりのプライベート空間だ。恥ずかしいから後ろ向きになっている。耳元で話しかけられるのがくすぐったくて嬉しい。
「優佑さん?スーツケースの中、整理するのは明日やりますか?」
「あっ、ヤベ。忘れてた。めんどくさいな、明日やるか。ほとんど洗濯物なんだよな」
「そしたら、開けてもいい?すぐにでも洗濯したい。後、掃除してもいい?あっ、それから明日、僕は下の部屋に帰ってみる。ずっと留守にしてるから心配なんです」
ペイントハウスである岸谷のここから下の階に玖月の家がある。
「玖月の家、俺も行ってみたい。ダメ?」
「いいですよ。でも、ずっと掃除してないから心配。大丈夫かな」
「一緒に行って荷物取ってこようぜ。近いうちに引き払うだろ?だからちょっとずつ荷物を運んでもいいしさ。あ、後スーツケースか…俺が片付けるよ…と、言っても玖月が気になるんなら開けてもいいよ。問題ないから。でも、掃除も洗濯も無理しなくていいよ。疲れてるだろ?」
「やっぱりここにいるとルーティンでやりたくなっちゃうんです。できる範囲でいいのでやらせてもらえれば安心するんですけど…」
「うーん、玖月が気になるようだからな。ま、いいけど無理しないって約束だけはしてくれよ。それよりさ、自分の携帯戻ってきたろ?電源ONにしてみた?」
さっき実家から帰る時、知尋に携帯を渡されたから、無言で奪い取りポケットに入れて持って帰ってきていた。
お風呂から出た後、冷蔵庫から水を飲みその時に携帯のことを思い出して、ベッドルームまで一緒に持ってきている。
ベッドの中で電源をONにすると、あっという間に繋がり、メッセージなどがバイブレーションの音と共に入ってきた。携帯がブーブー音を立てて、震えている。
うつ伏せに体勢を変えて携帯を眺める。
「ああ、もう、やだな。こんなにいっぱい未読が溜まってる。こうなりますよね、ずっとOFFにしてたんだから」
「そうだよな。結構長い間だったもんな。ああ…俺のメッセージ見られるの恥ずかしい」
岸谷はそう言いながらも、玖月に覆いかぶさり、首や背中にチュッチュッとキスをしていて忙しそうだった。
「あっ!SNS見た?」
岸谷が自分の携帯を手繰り寄せ、玖月の隣に同じくうつ伏せとなった。
二人でSNSを開いて、お互いのアカウントを確認する。岸谷はアメリカ出張中に数枚アップしていたようだ。どれもこれも会社の商品であり、仕事関係の写真だった。
「うわ…なにこれ。え?DMも?優佑さん、凄くたくさんメッセージが届いてる」
「だろ?俺もさ、あんまり更新してなかったんだよ。玖月が携帯見られないってわかったからさ。だけどメッセージだけはそれなりに多く届いてくるんだよな」
以前、岸谷は二人のSNSが少し人気になっていると言っていた。そういえば知尋も知っていて言われたなと思い出す。
玖月のところには、更新がストップしているのを心配する声がたくさん届いていた。
『いつも楽しみにしてます』『ご飯の写真が見たいです』から始まり『大丈夫ですか?』『恋人と何かあったのかな?』という声も多く入っている。
しかもそれらのコメントの多くは知らない人であり、フォロワーもかなり多く増えている。皆、心配しているコメントばかりだった。こんなことになっていたなんて、知らなかったしと驚き、不思議にも思う。
「玖月の方はみんな好意的なメッセージばっかりだろ?更新しないから心配してる人とかいて。俺の方はさ、ひでぇよ…『お前の下手な料理を待ってる』とか、『なんだ、フラれたのか?』とかさ、そんなのばっかり。ほら、こことか見て。なっ?ひでぇよな。まぁ、心配してんのか、ふざけてんのかって感じで面白いけど。アメリカで広告デザイナーの木又悠さんに会ったんだよ。そしたらさ、真っ先に言われた。『SNSの更新楽しみなんですぅ』って。木又さんの彼氏も紹介されたんだけど、『悠が心配してばっかりだから更新してくれるとありがたい』ってその彼氏に言われてさ。ウケるよな」
「ええっ?木又悠に?ウソ!えっ…木又悠の彼氏?彼氏なの?」
確か、木又悠は男性だ。日本でも彼が手がけた広告が有名になったからよく覚えている。
「うん。二人はオープンにしてるからみんな知ってるけど、木又さんにはガタイのいい彼氏がいるんだよ。外人だぜ、あっ、日本とのミックスって言ってたか…いっつも一緒にいるから、俺との打ち合わせなんてほとんどその彼氏も一緒だった。彼氏は乙幡 さんっていうんだけど、その人とも仲良くなってさ、いい人だったよ。あっ!その人に今度新作送るって約束したから、新しい酒を送らないと。木又さんもその彼氏と一緒に暮らしてるんだって。今度アメリカに遊びに来てって言ってたぞ。木又さんがやたらと恋人はどんな人か?って聞くからさ、かわいい人ですよって答えておいたよ。それと何故か玖月がSNSにアップしてる写真が上手だってやたら褒めるんだよな…だけどさ、彼氏の乙幡さんは『いいからSNS更新しろ!』ってそればっかり言うんだよ。本当、笑っちゃうよな」
岸谷が楽しそうにつらつらと喋っている間に、SNSのコメントを確認した。
そして、木又悠から以前の写真に『いいね』が送られていたことに気がつく。その時の影響が大きく、フォロワーもいいねの数もぐんと増えていた。
「優佑さん、アメリカで上手くいって良かったですね。木又さんとも知り合えたし、仕事は忙しそうで大変みたいだけど、でも何だか楽しそうでよかった」
「うん、まあ、今回は上手くいったから良かったけどな。そうだ!さっきの新作をアップするか。玖月も同じ写真使えよ。みんなも期待してんだろうし、少しくらい期待に応えてやろうぜ」
You are my Boo という新作のお酒も木又悠が広告を作ってくれたようだ。まだ発売前だけど、広告は既にアップされていて世間からは注目を集めているようだ。
そんな大切なお酒をプレゼントしてもらい、更には写真をSNSにアップするのはいいのだろうかと、心配になる。
岸谷にそう伝えると、大丈夫問題ないからと答えが返ってくる。本当かな。
「よし、俺はアップしたぞ。ほら」
岸谷の携帯には、お酒の写真と一緒に『ただいま』とコメントが入っているSNSが見えた。
「じゃあ…いいの?僕の方でも同じ写真載せますよ?」
玖月も久しぶりにSNSを更新した。岸谷と同じ写真を使い、コメントは『おかえりなさい』と入れた。
「うげぇ…もう、ブーブー音がする。携帯はOFFにしておくか、明日は休みだし」
アップして早々に『いいね』の音が聞こえてくる。
「そうですね。僕は明日と明後日がお休みです」
「おっ!奇遇だな、俺も明日と明後日は休みだよ。そしたらずっとイチャイチャできるな。会えなかった分ずっと」
携帯の電源をOFFにしたのか、岸谷はポイっとベッドの下に放り投げている。玖月も真似してポイっと同じ場所に投げてみる。二人で、ふふふと笑い合った。
「なぁ…玖月。こっちおいで」
「ふふふ、気持ちいい…もっとぎゅってして?優佑さん、」
「ヤバい…また勃ってきた。玖月の肌は気持ちいいな。お尻もかわいいし…」
「も…やぁだ、そればっかり」
ベッドの中で向かい合い抱き合う。チュッチュッと顔中にキスをされ、首筋にキスが降りてきた。心置きなく恋人としイチャイチャできるのも初めてだし、これは相当楽しい。また、心がとっても満たされる。
「うーん…ダメだ。完全に勃ってしまった。これじゃ本当に明日はベッドの上にいることになるぞ?」
グリグリと腰を押し付けられ、岸谷の逞しさを感じる。
「いいですよ。ふふ…明日はぎゅってしてて欲しいな。でも…その先もチャレンジしてみたいなって、」
「ええっ!!マジか!いいの?そんなこと言っていいの?するよ?いつか、絶対しちゃうよ?」
ガバッと岸谷が起き上がり、玖月に覆い被さってきたので「もう…何でそんなに大きな声出すんですか」と笑いながら岸谷の肩にキスをした。
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