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第42話 岸谷

「優佑さん?大丈夫?やりましょうか?」 「大丈夫、任せてくれ。今、スーパーで知り合った二人に教えてもらってきた。すぐに出来るんだってさ。ほら、携帯のメモに作り方も書いてきたから、大丈夫」 玖月が心配そうにキッチンの中をウロウロとしている。岸谷が包丁を手にするというと、気が気じゃないと言う。 スーパーから帰ってきたら洗濯機が回っていた。玖月を探すと部屋の掃除をしていた。掃除は俺がやるよと声をかけたけど、困った顔をして「やらせて欲しい」と言うから仕方ない、そのままにしている。 キッチンに入って海斗に揃えてもらい購入した物をキッチンテーブルに並べた。そこからメモに書いてある通りの物を取り出し、料理を始めることにする。 「冷蔵庫が空っぽだったろ?酒と水しか入ってないもんな。本当は今日二人でスーパー行こうって話してたのに…玖月、難しいだろ?ごめんな。っつても、俺も何を買っていいかわかんなかった。これでいいのかな」 「このオリーブオイルって…初めて見ました」 「あっ!それね、さっきスーパーでおすすめしてくれたんだ。俺がさ、カレーコーナーで困ってたら芦野くんって店員が声かけてきてくれて、そしたら芦野くんの後輩?友達?の、海斗っていう子が途中から話に参加してきて…そんで、最終的に海斗がこれ全部揃えてくれたんだ。ほら、見てくれよ、このフードプロセッサーとかいうやつ。すっげぇ便利なんだって。後さ、お米は炊いてないだろうから、とりあえずこれをチンしろってさ…」 隣にいる玖月を見ると岸谷の話を聞き、ニコニコと笑っていた。「ん?」と聞くと、ピトッと身体をくっつけてくる。 かわいい… 「ん?どうした?」 「ふふふ…優佑さんが一生懸命やってくれのが嬉しいんです。それに、スーパーの店員さんと仲良くなったんでしょ?今度行ったらご挨拶できるかな?って。ふふ、楽しみですね」 ヤバイ…玖月が可愛過ぎて、俺は鼻の下が伸びきってしまうかもしれない。このままここで押し倒して、また暴走してしまいそうになる。 一度食事を作り、食べさせないと玖月はぶっ倒れてしまう。自分の性欲が怖い。岸谷は本気でそう思っていた。 「玖月、目を閉じて。いいっていうまで開けちゃダメだぞ」 「え?なんでしょう、こうですか?」 素直な玖月は岸谷に言われた通りに目を閉じている。そのまま玖月をひょいと抱きかかえて、リビングのソファに座らせた。 あのまま、キッチンで隣にいたら、せっかく買ってきた新しいオリーブオイルをまたひと瓶使ってしまうことになりそうだ。 本当に…あのまま見つめ合ってしまったら、昨日のようにまた始まってしまったはず。だから、目を閉じてくれなんてお願いをしたんだ。それなのに、目を閉じてる玖月が可愛くて押し倒してしまいそうになる。どうなってるんだ、玖月の可愛さ。どうなってるんだ、俺の性欲。 しかし、イチャイチャなんて、時間があれば一生できちゃうもんだし。キリがない。 ソファに座らせておでこにチュッとキスをする。目を開けていいよと言うと、ゆっくり目を開けた玖月はキョトンとしていた。 「ここで待ってて。出来たら呼ぶから。あのままキッチンに二人でいると、またオリーブオイル使っちゃうぞ」 玖月の鼻をちょんと触り、そう言うと、顔を真っ赤にさせていた。あんな感じだと、こっちがどうにかなりそうだと、岸谷は新しい悩みができてしまう。既に股間が熱くなりかけている。 海斗が教えてくれた10分で出来るカレーは、本当に簡単にできた。それも、野菜を切る必要がなかったのが大きい。全部、フードプロセッサーのお世話になり、みじん切りにできた。 よし、後はパックに入ったご飯を電子レンジでチンすれば出来上がりなはず。初めてひとりで順調に料理が出来たと感じる。感無量だ。 玖月を呼ぼうと振り向いたら、背筋をピンと伸ばし、ぴょこんと顔を出してキッチンを向いている玖月と目が合った。目が合った瞬間、ニコッと玖月は笑ってくれる。 携帯をいじることなく、TVを見ることもせず、言われた通りにソファに座り、ずっとキッチンにいる岸谷の背中を見ていたのかとわかると、いじらしくて、愛おしくなる。 「玖月、お待たせ。カレーが出来たよ。おいで」 キッチンからリビングに行き、手を広げて迎えると、笑顔でソファから立ち上がってタタっと走ってきた。トンっと胸にぶつかってくるから、思いっきり抱きしめた。 ヤバイな…浮かれている。 恋をすると、こんなになってしまうのか。明日から大丈夫だろうか。家の中だけだろうか、こんなになってしまうのは。外でもこの調子だったら高校生みたいだよなと、岸谷は客観的に自分を見て、内心苦笑いをしていた。 カレーが出来ただけで両手を広げて恋人を胸に迎え入れるなんて、今までだったら考えられない。それも幸せを噛み締めてやっている。会社ではガツガツと仕事をやりたい放題やっている社長なのに。 でもいいか。 カッコつけて気持ちを抑えるより全然いいだろう。好きだという気持ちを抑えずに伝えれば、相手にもはっきりと伝わるだろう。幸せにするって約束したんだし。 「優佑さん、すごいね。美味しそう」 岸谷が作ったカレーを見て玖月が喜んでくれている。ダイニングテーブルに座りウキウキとしているのがわかる。 「玖月、好きだよ」 急に言ったから、えっ?と驚き、顔を上げている。その後、また顔を真っ赤にする玖月がかわいくて、岸谷もニヤけてしまっていた。

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