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第43話 岸谷※
「今まで食べたカレーの中で世界一です。ものすごく美味しい!」
ほらな、世界一だろ?
玖月は隙があればすぐ褒める。
でもまぁ、褒められれば嬉しいから、ありがとうと岸谷は素直に伝えた。それに、今回のカレーは本当に上手くできたと思う。
「今度あのスーパー行ったらお礼しようっと。あの店員いるかな?玖月も一緒に行こうぜ。それと、他に買った食材もあのオリーブオイルかけるだけで、美味しくなるとか何とか言ってたぞ?」
「それが、センスいいなと思ったんですよ。あのオリーブオイルもそうだけど、他に買ってきた食材は珍しい野菜もあるんだけど、使い勝手がいいものばかりで…ほら、優佑さんひとりだと難しいでしょ?何を買っていいかわかんないと思うんですよ。それをわかってて、この食材を選んでくれたって感じなんですよね。うーん、素晴らしい店員さんですね。今度会ってみたいな」
「それがさ、店員じゃないんだと思うんだよな…ひとりは店員だよ?だけど途中から話に入ってきた奴は、店員の友達?後輩?みたいで、ただの料理好きらしいんだよな。でも面白かったよ、若者が二人で小競り合いしててさ。あっ!そうだ。ごめんな、オリーブオイル。ひと瓶使ったとは思わなかったからさ。床の掃除させちゃった?ごめん。俺が掃除すればよかった」
楽しく会話をして食事が進んでいたが、急に玖月が黙り込んでしまった。
「ん?玖月?どうした?」
「もう…食事中にそんな話して。思い出させないで…」
澄ましているけど、真っ赤な顔になってカレーを食べている。オリーブオイルを使い過ぎてごめんと謝ったから、あの行為を思い出して恥ずかしくなったんだなと、遅れて岸谷は理解した。
「食事…終わったらいい?そんな話しても」
「うん…いいけど…」
嫌じゃないんだ!いいんだ!感動する!
嫌がっていない玖月の顔をじっくりと見てしまう。それに、こんな会話をしてるだけで勃起しかけているなんて、俺は中学生か!と、岸谷の心の中も葛藤中である。
「そうだ!玖月の部屋、どうする?明日も休みだから明日行こうか。あとちょっとで荷物運ぶの終わるもんな」
話題を変えようと必死で、違う話を振ることにした。
玖月の部屋には先週招待されて、行っている。ずっと来てなかったからと、玖月は恥ずかしがっていたが、きちんと整理整頓されていて綺麗な部屋だった。ここで玖月が生活していたんだなと思うと、ジーンと感動してしまったのを思い出す。
「はい、明日行こうかな。明日も休みだし、早起きして行こうかなって思います。今日は…ゆっくりしよう…かなぁ…って思ってます」
もうダメだ。
何を話しても行き着く先はそんな話になってしまう。そう聞こえてしまうのかもしれい。
でも、今の玖月は期待をしている。もじもじとして、最後は尻窄みな言葉になってたけど、今日は二人でゆっくりとイチャイチャしたいってことだ。今の会話はそういうことだ。
今日、玖月は『その先』を望んでいると思ってしまう。
「じゃあ、今日は一日ゆっくりしよう。俺さ、ベッドでゴロゴロしたいなぁ。それでもいい?」
「あっ、そうですよね。優佑さん、今週は忙しかったし、ゆっくりしてください。疲れをとった方がいいですよ」
あー…早くゴロゴロしてぇ…と、岸谷はカレースプーンを握りしめて遠くを見た。
◇ ◇
「や、やぁ、もう…ちょっと…」
「ん? 玖月。もっとこっちこいよ」
食事も終わったし、腹もいっぱいになり、下半身も元気いっぱいになった。
「まだ夜じゃないでしょ?」
「夜じゃないよ?だから時間はいっぱいあるさ」
「えっ…ええーっ…あ、もう…やぁだ…」
玖月は恥ずかしがっていたが、抱き合ってクスクスと笑い合い、イチャイチャしてたらスイッチが入ったようだ。
首筋にキスをすると、気持ちよさそうに身体をクネらしている。
スイッチが入ると、玖月は岸谷の肩や首にキスをして甘えてくる。潔癖症だったとは思えないほどだ。
今は色んなところにキスをしても嫌がられていない。よかった。
ベッドの中にいるので、もちろん二人は真っ裸だ。唇にキスをしながら首筋にして、胸や腹にもキスをしていく。
玖月の声が変わっていくたびに、岸谷の下半身もぐんぐんと成長していくのがわかる。
「…さっきさ、ドラッグストアで買ってきたよ。これ」
コンドームとローションを見せる。ぱっと顔を赤らめるが、うんうんと頷いている。
「ちょっと試してみる…?嫌だったら言って、それと無理だって思ったらすぐ言えよ?痛かったり、気持ち悪かったら、」
「大丈夫!平気だと…思う」
話の途中で遮られた。必死になっている玖月を見て心配になってしまう。
「そんな…無理するなよ。俺はいつもの感じでもいいよ?玖月が嫌なことはやりたくないし、」
いつもの感じとは、素股のことだ。
馬鹿のひとつ覚えみたいに、そればっかりしている。
「だから!大丈夫…なの…あのね、僕も、買ってある。ちょっと待って」
ベッドルームの棚からローションを取り出し、岸谷に「ほら…」と見せてくる。
玖月も買っていたなんて!と、岸谷は玖月の手のひらに乗せているローションを見て、大興奮してしまった。
「おお!玖月も…ローション買ってたか!ん?あれ…?これさ、使ってる?」
岸谷がさっき買ったローションは、まだ開けていないので薄いビニールのパッケージに包まれている。だが、玖月が出してきたローションは既に使ってある形跡があった。
岸谷がそのローションを掴み、パチ、パチとローションの蓋を開け閉めした。
「いや!言わないで!」
「ん?何で?使いかけなの…?え?えーーっ!マジか!まさか!自分で?」
真っ赤な顔が全身に移り、身体も赤くなってきている。面と向かって使ったのか?なんて言われたから、玖月は言葉にならないようで「うー…」と唸っている。
かわいい。
「ごめんごめん。デリカシーなかったな」
ぎゅっと強く抱きしめた。
玖月がひとりで準備をしていたんだとわかると、胸の奥がグッと波打つ気がした。
今まで岸谷に恋人は何人もいた。この年だし、スペックも高いし、それなりに付き合ってきた人は何人もいる。
だけど、いまいちいつも夢中になれず、追いかけることも、追いかけられることもなく、常に冷めていた。後腐れなくその場が楽しければいい感覚で、恋愛をしてきていた。
今までセックスする時は、なんとなくそんな雰囲気になり、なんとなくして終わる感じだった。セックスは気持ちいいから好きだけど、あれこれ愛を囁いたりするのは、正直めんどくさかった。
だからいつもホテルで淡々とやることだけやって、早く家に帰りてぇと思っている失礼な男だったと自分で思う。
それが、玖月に対しては気持ちの入りようが違っていた。
好きで好きでたまらない。どうしても離したくない。そして独占欲が働いてしまう。
嫌がることはしたくないが、玖月の身体に触れていたい。玖月の中に入りたい、そんな抑えきれない欲望があり、そんな欲望が湯水のように沸々と沸いてくる。
それに、玖月の身体を労ったり、セックスするのに努力をしたり…嫌われないように、気持ちいいことだけをしてあげたいなんて、そんなこと今まで付き合ってきた人にはしたことがなく、考えたこともなかった。
「玖月…途中で止めてやれないと思う…」
岸谷は、使いかけのローションを手のひらにドロっと出した。
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