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※ 執務室・ウィズ・ゴードン その1
一戦終え、身を起こしたハリーが「てっきり君は、エルと寝たことが在るのかと」と呟いた時に覚えた驚愕と言えば。
その後に「じゃあ僕とが初めて?……男とやるのが……うん、全然上手かったよ、自慢に思っていい」と取り繕うように笑われたが、フォローとしても盛大に間違っているし、全然そうじゃない、そうではないのだ。
床の上に座り込み、はだけられたシャツの胸元を掻き寄せながら後ずさるものの、結局ハリーは背中を壁にぶつけた。追いつめるという行為は好きだ、正直。怯えと興奮に輝く緑色の瞳を覗き込んでまた勃起しそうになったが、ゴードンは辛うじて歯を食いしばり、目下の問題へ手を掛けた。
「俺が彼と?」
「だって君は、彼を慕ってる。ある意味偶像視してると言っても良いくらいだ」
キスのし過ぎでぽってりと充血し、唾液でてらつく唇は、どんどん言葉付きの勢いを衰えさせていく。
「普通なら、幾ら直々にオファーがかけられたとは言え、ワシントンDCで活躍していたロビイストがこんなところには来ないだろう」
以前から理解していたことだが、普段の飄々とした態度は、あくまでハリー・ハーロウの一面でしかない。彼は様々な事に引け目を感じている。こんな田舎の都市に生まれ育ったこと。カトリックの教義を捨てきれないゲイであること。若くして市長という思わぬ出目を引き当てたこと。
「そりゃちょっと繊細過ぎる」と一蹴してしまうことは簡単だ。けれどゴードンは、目の前の男と身体を重ねれば重ねるほど、より奥へと触れれば触れるほど、興味を掻き立てられる。
まずそのことについて、説明が必要だ。隣で同じく壁へ凭れ掛かって腕を回せば、頑丈な肩が生娘のように震える。
「市長、あんたは正しい。偶像視とは的を得た表現だ、俺は少なくとも、仕事に関しては、彼の考えをタナハ(旧約聖書)と同じくらい、物事の根拠へするのにうってつけだと考えてます。その教えに従うかどうかは別としてね」
にやりと浮かべてやった笑みには、当惑の眼差しが返される。隠し事をしない、こういうすぐに胸襟を開いてしまうところなどは、エリオットと正反対だ──話題に出しているにも関わらず、今、彼の顔を思い浮かべたことにぞっとする。
「自分で言うのも何ですが、俺はあの街で活動していた不動産企業系のロビイストの中で、最も高慢ちきで面倒で、有能な人間の一人だったと思います。そんな俺を使いこなせていたのは、彼だけだ……勿論、粗を探そうと努力はしてみた。けれど、見つからない。まるで俺は、彼の影になったかのように、同じ考え方をすることができる。或いは、彼が編み出した思いも寄らない作戦は、どれも俺を納得させる」
一体全体、どうしてこんな展開になったのだと、ハリーがすっかり混乱していることなら、手に取るかの如く理解できた。もぞりと膝を擦り合わせ、2回ほど射精したペニス、掘削され過ぎてぷくぷくと腫れ上がったアナルや直腸を気にしている。心配しなくてもゴードンだって、見上げてくる間抜け面にすっかり絆され、欲情した。エリオットには、決して覚えたことのない感覚だ。
「そこで、聞きたいんですがね。あんたは神や、自分にとって最も理想的な姿へ刻まれた芸術品に対して、欲情できますか」
「なるほど」
しばらくの間、ハリーは俯いて、留めるものがなくなってしまった自らのカフスホールをじっと見つめていた。日付も変わろうという時刻、2人して出張から戻り、執務室へ篭もるや否やお互いの肉体を貪り合った応報。心配しなくても、ゴードンはついさっき、執務机の下に転がる銀色のカフスボタンについて、ちゃんと目星をつけていた。
「僕は、小学生の頃、通ってた教会で配られたパンフレットに載ってたキリストが、凄くハンサムでね」
「あー、そうですか」
皆まで言わさず、ゴードンは手を振って見せた。
「あんたは出来るタイプですね。いや、責めてませんよ。これはほんと二極化するんで」
「君の意外な一面を知ることが出来て、全く興味深いよ」
とハリーがぼやいたのは、完全に皮肉だろう。先ほどまで己を愉しませてくれていたペニスが再び首を擡げ始めていると確認し、顔を埋めようとする。押し止め、ゴードンは市長を立ち上がらせた。
「とにかく、心配しなくても、エルとは本当に何も」
「別に妬いてるとかじゃないんだ」
促されるまま机に手を突き、ハリーは首を振った。
「ただ、人の男を寝取るのは……確かに刺激的だけど、後味は良くない」
それをあんたが言うのか、道理で今日はやたらと盛り上がってた訳だな。言いたい事は山とあったが、ゴードンは突き出された尻を黙って撫でた。
形だけの関係だし、まだ世間には公表していないとは言え、今のハリーには婚約者がいる。
ここのところヴェラスコは、まるで何も起こらなかったかのように振る舞っている。というか、目立った動きもないことだし、もう異常事態に適応してしまったのだろう。そういう根幹のふてぶてしいところは、この世界で生き延びるために重要な資質だった。
どちらにしろ、あの坊ちゃん一人では、この絶倫男を相手にするなど皆目無理な話だ。こちらも本人は納得済み──そんな訳はない。この話題をつつかれると、奴は間違いなくブチギレるだろう。貞節の問題ではなく、男として、本人の肉体的なプライドに関する話だから。
つつき回して、いつかみたく癇癪で思い切り泣かせてやりたいという衝動に駆られることが、全くないと言えば嘘になる。それどころか、しょっちゅう悪意が胸の中にわき上がる。彼を嫌っているわけではない。一生懸命な弟分を可愛がりたくなるのは、自然な情動だと思う。
「そういうところがホモソーシャル的なんだ」と、エリオットだったら言うことだろう。それがどうした。彼だって己と負けず劣らず、男根主義的な社会で泳ぎ回ってきた癖に。
「その言いぐさだと、まるで過去に寝取ったことがあるみたいですね」
「うん、まあ」
こっそり振り返り、挿入できるようゴードンが自分で軽くペニスを扱いているの見たハリーは、傍目に分かるほど一層頬を赤く染めた。目が合えば慌てて正面に戻す始末だ。無意識の舌なめずりが煽る欲情を相殺するどころか、寧ろギアが遂にトップまで入れられたような気分になる。
「あんたみたいにエロい男なら、手玉に取るなんてお手の物だったでしょう。教えてくださいよ」
「ぜ、全部……?」
「常習犯なんですね。じゃあ、一番酷い話で」
両手で大きく広げた尻たぶの狭間に、避妊具を付けたペニスを擦り付ける。固い先端をひくひく喘ぐ穴へ食い込ませたかと思えば、蒸れてむっちり膨らんでいるように思える会陰を押し潰す。期待に胸を喘がせ、はっ、はっと獣のような呼吸を繰り返して待ちかまえるものの、結局ハリーは気付いたのだろう。自らが告白を終えるまで、望んだ快楽は与えられないと。
彼は幾らもしないうちに陥落する。問題は、こっちだってそう気の長い方では無いということだ。躊躇い立ち竦む心へ踏ん切りを付けさせる為、ゴードンは少しだけ手助けしてやることにした。相手の胸に手を這わせ、つんと主張する乳首を摘みしごくように引っ張ってやる。容赦なく、普通なら痛みを覚えるだろうほど──何でも強い方が好きなハリーには丁度良い塩梅で。
「や、ぁあ……ゴーディ、それ、だめだ、イく」
「イっても良いですけど、後が辛いってあんたいつも言ってるでしょう」
身体から手を離す前に、駄目押しとばかり汗ばんだ胸元から腹まで手のひらで撫でてやれば、びくびくと全身が電流でも通されたようにしなった。
「ほら、市長。あんたがかっさらったのは、どんな男だったんです」
「か、彼は、えっと、ザック、そう、保険の、営業をしていた……っ! ちょ、ゴーディ……!」
無くなった快楽を継ぎ足すように、自分で胸元の尖りを弄ろうとするものだから、間髪入れずに右手を掴む。ついでに反対の手も。顔が机へぶつかるより早く、手綱の如く両腕を背後へ引いてやった。
「うあ、んんっ」
身体が反った拍子に、ペニスで尾てい骨の辺りを突かれ、ハリーは重く甘い吐息を漏らした。
「ザック、出張で、この街に……僕は、あっ、大学の夏休みで、帰省してたから、っ、うぁ、やめ、そこ、挿れるなら挿れろ……だめだ、おかしくなるっ」
「さ、頑張って。政治は何より忍耐ですよ」
「くそ、後で、覚えて……あ、んっっ!」
くぽ、くぽとアナルへ先端を含ませては抜き取り、その度に本来慎ましくあらねばならない窄まりは、少しずつ口を大きく開けていく。揺さぶる動きに合わせて、うなだれた頭から垂れる乱れ髪が、天板を擦っていた。
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