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※ 執務室・ウィズ・ゴードン その2

「今までっ、男と寝たことが無かったのに……僕が、面白半分で誘惑して、ひっ、隠してた願望を……け、結局、彼ぇ、奥さんとっ、4人の子供を捨てて……僕の、セ、セックス・フレンドと、駆け落ち、を……!」 「まるで昼メロですね」  しれっと言ってのければ、かなり本気の怒りを湛えた目で睨みつけられる。 「あれだけ、聞きたがっといて、その反応……!」 「だってあんた、白状してる時、めちゃくちゃ興奮してたでしょう」  アナルが激しい収縮を続けていたのは、直截的な刺激を受け続けていたせいだけではない。  罪の告白がはらませる高ぶりの、根元にあるものは何だろう。罪悪感? 優越感?   多分、どちらもだ。そう思う程度に、ゴードンはハリーを神格化していなかった。それの何が悪い? 性交は人間とする。でないと面白くない。  元妻も完璧には程遠い女だった。掃除洗濯は嫌い、料理も下手で、その癖ハウスキーパーへの当たりが微妙にきつい。テレビやスマートフォンの情報を鵜呑みにするし、それにそう、ベッドの中でもいまいち。波打ち際に打ち上げられた魚のように横たわっているだけの日もあれば、積極的に誘ってくる時ですら、そういう教科書でも読んできたのかと思うほど、最後までルーティンぽさが抜けなかった。  それでも離婚の原因は8割方自らにあるとゴードンは思っていたし、10年ほどの結婚生活の間は、ひっきりなしに彼女へ欲情していた。 「なに、上の空になってるんだ!」  ぐいぐいと腰を押しつけながら、ハリーは今度こそ怒気も露わに唸った。反射的にゴードンが身をのけぞらせれば、そこは歪に形を開けながらひくついている。縁はとろりと糸を引き、ちらりと覗く肉の赤さが、繊細な内臓の下に血が通っている事を知らしめてくれた。  確かにこれは失礼なことをした。一層腕を引き、思い切り腰を叩きつける。 「あ、あぁっ……?!?!」  皮膚と皮膚がぶつかる乾いた音の中に、ぐぼっと鈍い響きが混ざった。ほんの短い時間で弛緩して、ゆっくりと元の狭さへ戻ろうとしていた内臓が、一気に再拡張される。粘ついた腸液やローションが糸を引く様子ですら、目に見えているかのように錯覚した。  不意を突かれれば、次は反射的に拒まれる。喰い締める肉の輪の動きは極上だった。それは恐らく、ハリーも同じだったのだろう。がっくり頭を落としたまま、剥き出しの尻から肩までをぶるぶると震わせている後ろ姿は、客観的に言えば滑稽だった。  なのに、勃起は益々きついものとなる。 「や、ぁ、ちょ、そこまで、興奮しろ、なんて…!」 「なんで。嬉しいでしょうが、デカいものをはめられるのは」 「……ふ、ぅ、デカくない、ぁ、長いんだ、君!」  「串刺しだ、はら、やぶれそう」なんて、一瞬声が弱々しくなれば、背筋がぞくぞくと震える。  まるで新しく買ってきた家電の具合を確かめるように、わざと素っ気なく腰を揺すっていれば、ハリーはあっけなく白旗を掲げる。先ほど自らで褒めたペニスを、先端は弁に近い徐々に狭まっていく場所で、裏筋はすっかり柔軟さを取り戻した粘膜で、根本は詰るようにきつい締め付けをする括約筋が。全身全霊で搾り取ろうとし、待ち侘びていた。 「くそっ、早く、動けよ! 市長命令だ、ファックしろ! でないと今すぐクビにしてやる……!」 「口の悪い市長だな……」  がつがつと堀り込まれ、望むものが与えられれば、すぐ悪態をつかなくなるのだから現金なものだった。 「あっ、あっ、あっ」  大きく腰を前後させ、抜けきる寸前まで行けば「まて」と悲鳴が上がる。すぐさま、すっかり固く凝っている道半ばの膨らみを叩いてやった。がくっと身体が前へのめるので、腕を引いて上半身を起こさせる。それでまた、一際感じるところを強く押し込まれたのだろう。 「ぉ、あ゛、あ、あぁ……」  綺麗に反り返る背中が一瞬硬直し、それから細かく震え出す。最低だとは分かっていたが、幼かった娘が高熱を出して痙攣したときの事を、ゴードンは思い出した──尤も、その現場に己はいなかったが。病院から泣きながら電話してきた妻へ、出張先で「点滴を打ってもらったから、もう大丈夫なんだろう。出来るだけ早く帰るから」と必死で宥めたのを思い出し、乾いた口の中が苦々しさで満ちる。 「あんたが罪悪感を覚える度に興奮するのは、やっぱりカトリックだからってのも関係してるんですかね」  萎えてしまわないように、一層ストロークを激しくする。かくかくと揺さぶられるままだった肉に、生きている者の反発が戻ってきた。 「いっそヴェラをここに呼びましょうか。アンアン言ってるところを見て貰ったらどうです。きっと傑作ですよ。平気な素振りをしてみせて、その癖、酷く嫉妬するでしょうね……今度ファックする時に、もっと激しくして貰えるかも。あいつは負けず嫌いですから」 「ば、ばか、ばかっ」  怒れば怒るほど締め付けが厳しくなる。或いは、ヴェラスコに詰られている己を想像して興奮したのだろうか。あらかじめ合意の関係なのにどいつもこいつも深みにはまって、翻弄される可哀想な僕、という訳だ。きゅう、と竿を引き絞られて、ゴードンは感嘆の呻きをあげた。  こちらは今、気持ちいい。けれど、ハリーにはまだ上がある。 「そういえば、その寝取り事件について、エルは知ってるんですか」 「は……? え、エルが?」  突然飛び出した名前に、ハリーはただでも苦しげに寄せていた眉根の皺を一層深めた。 「そう。彼に共有しておかないと、何かあった時にまずい。例えばその保険屋の奥さんや、子供達がとやかく言って来たら」  ぎくっと動きを止めた全身、特に力が篭もったのは腹筋だ。その隙を狙い、ゴードンは無防備に緩んだ結腸を一気に抜いた。  腹が微かに膨らんだように感じたのは気のせいかもしれない。だがこの音は酷かった。ごぶんと、内臓が立てているとはとても思えず、毎度ながら少し怖気を覚える。まるで詰まった配管が一気に流れたかのような醜さだった。だが醜さこそ、人間が必ず隠しているものだ。 「〜〜〜っ、あ……あぁぁ……」  遂に膝から脱力し、その場へ崩れそうになった身体を抱き留める。腹に腕を回して引き寄せられることで、結合がより深くなったのだろう。「も、これ、ぇ……こわい、やだ、だめだめ……!」悲壮な嬌声ですら、煽り立てる素因になる。そのまま床へ尻だけ上げた状態で俯せにされた時、隆々といきり立つペニスは、絨毯の長い毛足に埋もれ擦れたらしい。避妊具越しとは言え異様な刺激へ、ハリーは唾液と汗と涙が散ることなどお構いなしに、かぶりを振った。  後はもう、ゴードンがどれだけ好き放題しても、ハリーは雌犬のように甲高く喘いでいた。「わ、わかった、エルにもっ、いうから、ぁ……! ぜんぶ、ぜんぶ……!」 「そうだ、全部白状なさい。この街で初めて、性的スキャンダルで辞任する市長になっても良いんですか」 「いやだ、そんなの、あ、んんぅっ! ひ、ゴーディ!! す、すまない、うぁ、だまってて、ごめんなさぃ……」 「謝るのは俺やエルに対してじゃないでしょう」 「あ、あぁぁ、ゆるして……! もうしぬ!」  さすがに聖母マリア様の名前を唱えることは無かったが。ぱしんと尻を叩かれた刺激に、体内へ突き入れられたものを強く含み込んだのが仕上げだった。吐きそうなほど奥へ、剛直を自ら迎え入れてしまう。がりがりと絨毯を引っ掻きながら、ハリーは熱を放出した。  くたりと脱力した肉体へ、ゴードンが射精したのは、それからもう少し後のこと。その瞬間と、まだ繋がったままの身体を仰向けにしたとき以外、ハリーは外的刺激に対するまともな反応を寄越さなかった。  息も絶え絶えで、泣き腫らした目、これは一晩でどうにかなるだろうか。以前、確かモーとやった後も酷い顔をしていたので(あのジャーヘッドは、何故よりにもよって、定例記者会見の直前のファックを拒まなかったのだろう!)エリオットの予備の眼鏡を掛けさせてカメラの前に立たせたことがあった。本人専用の伊達眼鏡を購入させなければならない、しかも早急に。  まあそれはともかく、すっかり萎れているこの男にまず必要なのはアフターケアだ。ぐずぐずと鼻を鳴らしているから予想はしていたが、重ねた唇は少し塩辛かった。まるで赤ん坊が母親の乳房へ吸い付くように、キスを渇望され、悪い気はしない。 「くやしい。君は、アレが長いし、キスも巧い」  鼻で呼吸が出来ず頻繁に唇を外しながら、ハリーがぼやく。思わず吐息で笑えば、べちっと肩を叩かれた。酷く熱い手のひらに彼が生きていることを感じて、最高だと思った。

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