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第19話
朝は特にお腹が重く感じる
張っている様な気がして、目が覚める時もある
隣に彼が居てくれたら、少しは違ったのだろうかと産院に来ている幸せそうなカップルを見ると思ってしまう
仕立て屋 のみんなは、あたたかい人達で突然転がり込んで来た僕を受け入れてくれた
でも、火事の ことを知らないから
「あっ!起きてきたわね!」
「おはようございます」
「さっ!こっちにいらっしゃいな」
促されたのは、大きな鏡台の前にあった椅子
座ると、ササッと姉弟子のみなさんに囲まれた
「えっ?」
「「クリスくん。大人しくしててね?」」
20分後――
目の前に映るのは自分じゃない自分
「「やっぱり~!似合うと思ってた!」」
「「昨日のドレス姿みててね!」」
「「そ!絶対、似合うって思ってね!」」
楽しそうにキャピキャピしているお姉さん方を他所に近くにいたマーフィーさんにすがるような思いで助けを求める
「クリス。よく似合ってるじゃない。綺麗よっ」
「マーフィーさん......いまいち、状況が把握しきれてませんっ」
「婚姻の儀に行くんでしょ?」
「だ......れ、の?」
「「「「レノンドアール公爵様!」」」」
全身から血の気が引くのを感じた
「嫌ですっ!ごめんなさいっ!」
「「「待って、クリスくん!」」」
衝撃に耐え切れず、暫く固まっていた僕は、みんなの制止を振り切り、屋上へと逃げた
「や......だ。やだっ」
見たくない、みんなに祝福された幸せそうな2人なんて
現実なんて、分かってる
「そんな、突きつけなくても......迷惑なんて、掛けない!養育費をせびったりしない......父親として、会えなんて言わない!出産に立ち合ってなんて勿論言わないし、側に居てなんて言わないからっ!」
これ以上、惨めにさせないで!
ひとしきり、心のうちを叫んで崩れそうになると、後ろからフワッと抱き締められる
「あっ......なん、で」
悔しかった
声を聴かなくてもわかってしまう
1番欲しかったぬくもり
「私としては、全部してほしいのだけど、ね?」
耳元で囁かれれば、また別の意味で涙が出そうで――
「いやっ!他のひと抱いた手で触らないでっ!」
回されていた腕を振りほどいて、距離を取る
「妊娠中は、夫を毛嫌いするとあったけれど......まさか、自分の身に起ころうとは――」
シュンとしてしまった彼に抱きつきたくなるのをグッと堪える
「婚姻の儀、今日ではないのですか?」
「そうだね」
「ど、どうしてここにいらっしゃるのですか!」
「他人行儀だね、敬語を使うなんて」
彼が1歩距離を詰めるので1歩後ずさる
「僕は、一般市民ですから。公爵様には、敬語を使います」
「......君は、私と関係ないと?」
また距離を詰められて、1歩退く
「ええ!関係ありません!」
「ほう、では――」
距離を一気に詰められて、カシャンと背中が柵にあたる
「誰との子ですか?」
布越しに大きく膨らんだお腹を撫でられる
「っ――!僕の子です。父親は、居ません!」
お腹を庇って逃げようとする
「逃がしませんよ、クリス」
「んっふぅんんっ。いやっ!なにするんですかっ!?」
「お仕置きですよ。他の男との子なら――」
パシッ!
気づくと彼の頬をひっぱたいていた
「っ――!」
「なんで......なんで、そんな事言えるんですかっ!?」
「クリス......」
「貴方の方こそ、ミザリーさんとご結婚されるのでしょう?お幸せに!レノンドアール公爵様」
「彼女は、追い出しましたよ。今は、牢獄の中です」
「じゃあ!誰と結婚するんですか!?」
そう叫ぶと、彼が僕の方を指差す
「誰っ!?」
「君ですよ、クリス」
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