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第20話
ほんと、自分でもどうしてこんなに簡単なんだろうって呆れてる
ミザリー、彼女の本来の髪色は、銀髪ではなかったらしい
公爵家の幸福の花嫁というのは、貴族社会では有名な話だそうで、伯爵が孤児院で僕と目の色が同じ娘 を養子縁組したそうだ
伯爵は、所謂成り上がり貴族
1代前に落ちぶれかけていた伯爵家との縁談を取りつけて貴族社会に身を投じたのが、クラッキ のハルドレイ
ハルドレイは、1代で幾つもの商店をもつほど、経営に才があったが、その息子には、受け継がれなかった
貴族であることには、幾つかの義務が発生する
そのひとつが慈善事業
ハルドレイがまだ、表に出ていた頃から続けていた慈善事業の資金援助がクラッキ、現伯爵家当主に引き継がれた
が、色々なものに手をだし、上手くいかずに多額の負債を抱えていた伯爵家は、事実破産していた
やっと、貴族の座に治まった彼らは、どうしてもその地位を維持したかった
そこで、公爵家の幸福の花嫁を思い出したのだ
彼は、町で相次いで僕と同じような瞳の色の少年や少女を引き取り、髪を染めて公爵家のみならず、幸福の花嫁というネームバリューで幾つかの下級貴族とも縁談を取り持ち、多額の支度金を貰い受けていた
しかし、数ヶ月前――
タッチの差でアルと僕が出会った
資金援助を求め、上級貴族との繋がりをもつというこれまでの計画を無駄にするような出来事
追い詰められた伯爵は、銀髪に近い白髪の少女、ミザリーを公爵 の留守時を狙って送り込んだ
夜会に来た彼女 と公爵がゴシップにスッパ抜かれるところまでは、よかったものの町での不審な動向を調査していた公爵は、伯爵の計画も知っていたようで、それを逆手に取られ、彼女が捕まった
公爵夫人になって、贅沢な暮らしができると思っていた彼女は、勾留されると喚き散らし全てを吐いた
その証言により伯爵が捕まる
その2ヶ月後、ミザリーの伸びてきた髪が白であることも加わり王族に対する不敬罪諸々という事で、一生を狭い牢獄の中で過ごすこととなる
日の当たらない其処は、彼らの気を狂わせる
9ヶ月経った今、当初の面影も見当たらないそうだ
「それから、あの火事の黒幕も、そうです」
懐かしい腕に抱かれて、話を聞いていた僕は、彼の言葉に顔を上げる
「それって......」
「クリスのお父上にしつこく君を養子に欲しいと言っていたそうです。お店の方までね。借金も彼の仕業でした。不当な理由のね。お金に困れば、君を差し出すと安易に考えていたんでしょう」
僕を抱く腕にキュッと力が込められる
「しかし、君のお父上は、屈しなかった。だから......」
だから、強行手段を取った
僕が仕事 で居ない時間帯を狙って
「アル、あんなに小さかったのに......!母さんだって、父さんもっ他の人達だって――」
何の罪もない人たちを巻き込んだ――
「クリス、君宛てです。火事の詳細を調査していた時、元仕立て屋の向かい側にあった宝飾品の店で。宝飾店の主人が君の居場所を知っているのなら渡してくれと」
差し出された箱の中に入っている物には、見覚えがあった
「これ......父さんがいつも」
古いが、毎日磨かれていた父の腕時計
ただ、ベルトのところが新しいものになっている
“クリス、17歳の誕生日おめでとう。これは、私の父、君のお祖父さんから私が17の時に貰ったものだ。これからの大切な人との時間をこれに刻むといい。愛する息子の幸せは、我々親にとっても幸せなことです。世界中の誰よりも、貴方がそうなることを願っています。父・母より”
涙が出た
赦す赦さないではなかった
思い出したのだ
父も母も弟もみんな優しかったことを
恨むより、願ってくれることを
みんなが守ってくれたこの命を人生を
大切に、願いにそった生き方をしよう
なるべく、永く――
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