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こいつ、可愛いな ★

 誉の目の前でゆっくりと扉が閉まる。驚いて誉が振り返った。正面からじっと誉を(にら)む。 「え?? あの……くじょう……さん?」 「どうして」 「は? え?」 「……どうして無理して笑うんだ?」  ()びるみたいに。  誉の顔が一瞬で強ばった。 「……そんなの……関係……」 「関係ない。ないけど……」  ないけど……なんだ? そこで、自分も何が言いたかったのかわからなくなった。あの(うそ)くさい笑顔になぜだか無性に腹が立って、咄嗟(とっさ)に行動に出てしまっただけで。  黙ってしまった千晃を、誉がくりっとした目でじっと見上げてきた。  こいつ、可愛いな。  とこんな時に思う。  誉が、千晃を見つめたまま口を開いた。 「……その質問の意味はよくわからないけど。これに関しては放っておいて欲しい」 「…………」 「俺はこうやって生きてきたから。九条さんみたいな立派なお医者さんにはわからないと思うけど、俺みたいなのは……」  誉が何やらごちゃごちゃと言葉を発しているのを、ただ見つめる。  さっき苛ついたのは事実だった。何に対して苛ついたのか。自分でもはっきりとはわからなかった。だから、伝える言葉もなく黙った。こんな自分が、口出しする権利がないのは理解している。でも。 「……綺麗(きれい)事ばっか並べられるような生活もしてないし、俺なんか……」  こいつのくだらない言い分をこれ以上聞きたくなかった。 「ちょっ……んっ」  無理やり。誉を引き寄せて、唇を重ねた。最初から可愛いキスなんてするつもりはなかった。両手で誉の顔を(つか)み、舌をこじ入れて誉の口内を()め回す。戸惑って逃げようとする誉の舌を捕まえた。しつこく絡めていると、ふと、誉の体から力が抜けた。恐る恐る舌を絡ませて応えてくる。

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