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心からそう思った
「千晃」
身の上話を明かした後、ぼんやりとスポーツドリンクを啜 っていた千晃が、顔をこちらに向けた。
「親父さんにはっきり言ってやれば?」
「……何を?」
「もう限界だって。縛られるのも、家族ごっこするのも」
「……言っても理解するようなやつらじゃない」
「理解なんてしてもらわなくてもいいじゃん」
「…………」
「相手本意じゃなくて。千晃がどうしたいかだろ。向こうから縁を切るのを待つんじゃなくて、千晃から切ってやれば?」
「……それは……思い浮かばなかった」
「言いたいこと言って。三行半突きつけてやればいい」
千晃はきっと、根が優しい人間なのだろう。どれだけ疎ましいと思っていても。無意識に相手のことを考えてしまうのじゃないだろうか。自分から切るという選択に気づかないほどに。だから、ただひたすら、相手が自分を見限るまで待ってしまう。自分から相手を傷つけるようなことに二の足を踏んでしまう。
でもそれじゃ、千晃が苦しいだけだ。
「まあ……そうは言っても、実の親父さんだし。千晃が少しでも躊躇 があるならあれだけど……」
「躊躇 はない」
「……そうか」
「1人になっても。何が起きても、後悔しない」
「……1人じゃないよ」
微笑みながらそう伝える。千晃が微かに驚いたような表情をした。
「千晃は気づいてないかもしれないけどさ。千晃を必要としている人は沢山いると思う。千晃と友達になりたい人も沢山いると思う。千晃が望めば、すぐに友達100人だから」
少なくとも。その内の1人はここにいる。千晃がふっと相好を崩した。
「100人は要らない」
「物の例えだから」
「……誉」
「ん?」
「ありがとう」
「……うん」
少しは力になれただろうか。底辺から抜け出すきっかけを作ってくれた千晃に、お返しができただろうか。
千晃がこの先もっと自然に、もっと自由に、そしてもっと笑顔で生きていけるといい。
心からそう思った。
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