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アルバイト

 それから程なくして、誉は予定通りホストクラブを辞職した。12月末でちょうど切りも良いタイミングだった。マネージャーが約束を守ってひた隠しにしてくれたので、だれも知らないまま最後の日を迎えることができた。  誉の退職が気づかれないようにと、後任の店長を探すことも誉の退職まで控えてくれた。見つかるまでは、マネージャーが兼任して店を切り盛りする予定らしい。最後まで色々と誉の無理を通してくれたマネージャーには感謝している。セックスは下手だったけど、悪い人ではなかったなと思う。  例のホストには何度も誘いを受けていたが、全て拒否した。もう辞めることが決まっていたし、これ以上機嫌を取る必要もないと思ったからだ。駄々もこねられたし、店を辞めるだのなんだのと脅迫まがいのこともされた。でも、態度を変えなかった。体調が悪いだの、性病になっただの理由をつけては断り続けた。誉の急変にもっと(いぶか)しがられるかと思ったが、特に追究されることもなく、あっさりと関係は終わった。  同時に、今までちょこちょこと関係のあった男たちとも縁を切った。もう、誉には必要なかったから。 「いらっしゃいませ」  引っ越し先であるアパートの最寄り駅近くにある小さな書店。誉は年明けからそこでアルバイトを始めていた。時給はそれほど高くもなかったが、自宅から近いことと、店長が店番中でも時間があれば資格の勉強に充ててもいいと言ってくれたことが決め手となった。  小さい店ながらも昼休み辺りや夕方から夜にかけては多くの客で(にぎ)わった。学生時代のバイトを思い出して懐かしくもあった。ホストクラブで働いていた時にはなかった、働くことの楽しさがあった。  千晃とは、相変わらずジムでのみの付き合いに留めていた。新居の住所も教えていなかった。教えてこない誉の態度で察したのか、千晃も聞いてくることはなかった。でも、誉の会話の断片からバイト先の場所は見当がついたらしい。

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