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潔癖

 邪魔にならない場所へと車を移動させて、一緒に降りる。  誉の引っ越し先は、オートロックはもちろん、エレベーターもない2階建ての古いアパートだった。寝泊まりさえできればいいと思って選んだ結果だった。収入がかなり減るので、節約できるところは節約したかったのだ。  ところどころ()びのある鉄骨の階段を、2人で一緒に上っていく。誉の部屋は2階突き当たりの角部屋だった。 「ボロボロで申し訳ないんだけど」  そう前置きして、鍵を開けて中に入った。千晃が後ろから続く。 「綺麗(きれい)にしてるんだな」 「俺、けっこう綺麗(きれい)好きだから」 誉の部屋は、玄関から上がってすぐに台所スペースと小さなバスルーム、敷居を(また)いだ奥に6畳ぐらいの畳の部屋があるだけの小さな空間だった。そこに、必要最低限の物だけを、整頓して置いている。(ほこり)も落ちていない。  母親が不在だった生活の中で、家事全般は自然と身についたのだが、その中でも掃除は誉が一番好きな作業だった。汚れた物を綺麗(きれい)にする。その行為に快感を覚えた。汚れた物たちを母親と重ねていたのかもしれない。気づけば少し潔癖すぎるぐらいの綺麗(きれい)好きになっていた。  畳の真ん中に置いた小さなテーブルの横に座って、千晃が興味深そうに部屋を見回している。 「コーヒーでいい? 紅茶もあるけど」 「コーヒーで」 「ミルクと砂糖は?」 「要らない」 「わかった」  誉は狭い台所に立つと、コーヒーを作り始めた。洒落(しゃれ)たコーヒーメーカーで豆から煎れる。 「家電は立派だな」 「まあ……前のマンションのやつをそのまま持ってきたし。入りきらなくて、かなり処分したけどな」  コーヒーを2人分煎れると、カップを手にリビングのへと戻った。テーブルにそっと置く。 「どうぞ」 「ありがとう」

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