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焦る気持ち

 再び誉のアパートへ戻ると、開錠して部屋へと入った。やはり誉は不在だった。倒れていなかったことに安堵(あんど)する。部屋の中は、以前訪れた時とほぼ同じ状態だった。争ったような形跡もない。1つ違うのは。机の上に参考書が数冊置かれていたことだけだった。  洗濯物が部屋干しされたままになっている。台所を確認すると、炊飯器の電源が点いたままになっていた。中を見ると、炊かれたご飯が手を付けられずに残っている。黄色みを帯びて硬くなっているので、炊かれてから時間が経っているようだ。  この様子からすると、誉が意図的に消えたようには思えなかった。いつも履いているスニーカーも見つからないことから、どこかへ出かけたことは推測される。でも、そんな遠出をしようとしたわけではないだろう。もしそうなら、洗濯物を干したままにしたり、米を炊いておいたりするのもおかしい。  だとすると、誉はすぐに帰ってくるつもりで家を出て、なんらかの事情で帰れなくなったということか。例えば、どこかで事故に巻き込まれたとか。だれかにさらわれたとか。もしかしたら、状況は思ったより深刻なのかもしれない。  焦る気持ちと共に誉の部屋をくまなく調べて回ったが、誉の行方がわかるような手掛かりは何もなかった。  それからアパートを出て、とにかく思いつく限り誉を求めて探し回った。だが、ほとんど当てがない。こんな時に、誉の普段の行動パターンを全く知らなかった自分を思い知る。  以前に誉が住んでいたマンション近くの、あの焼き肉屋にも寄った。千晃と来て以来、誉が寄った事実はなかった。ジムにも行き、ここ最近の誉が来館した記録を尋ねたが、予想していたとおり個人情報なので提示してはもらえなかった。  しかし、ジムのスタッフとは顔見知りだったし、誉と千晃が一緒にいたことも覚えてくれていたので、データを見せてはくれなかったが、スタッフの記憶している範囲では教えてくれた。彼らの話からすると、やはり2、3週間前ぐらいから誉を見かけていないことがわかった。  前の勤め先も調べたかったが、どの店かわからない。誉が勤めていたホストクラブがあると思われる界隈(かいわい)は、似たような店でひしめき合っている歓楽街だった。そこを1件1件しらみつぶしに当たってみるしかないだろうか。  かなり時間はかかるだろう。でも今はそれしか方法がない。

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