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第2話
「おい! おい!」
気持ちよく眠っていたのに、誰かから声をかけられ、身体をゆさゆさと揺さぶられた。
だけど、頭がボーッとしていてすぐに目を覚ませなくて、そのまま揺さぶられたけれど、そのうちにこのままじゃ起きないと思ったのか、相手は肩をバンバンと叩き始めた。
さすがに肩を何度も叩かれるうちに僕の目も冴えてくる。
「うぅーーーーん。何?」
「何じゃないぞ。お前、何者だ」
深い青色の綺麗な目をギラリと光らせて、探るような目付きで僕を見る。
「何って、人魚だけど?」
「はあ? なんで疑問系で答えるんだ。わけが分からん」
勝手にあきれられて、ため息をつかれた。何だよ。失礼じゃないか。
「ふん! こっちだってあなたは何者なのって聞きたいんですけど! それにお腹の傷の手当までしてあげたのに」
「ああ、これはお前がやってくれたんだな。それに関しては感謝している」
「言い方、なんだか威圧的だし、感じ悪い……」
僕は頭は頭にきたので、相手をキッと睨んでみせた。すると男はそんな僕の顔を見たあと、僕の全身をジロジロと観察し始めた。
僕の身体を一通り見終わって満足したのか、男は表情を和らげた。そういえば、初めて見た時は目を閉じて倒れていたから瞳を見るのは初めてだったなと思い、僕もその男の顔をじっと見た。すると、男は、
「ふっ。そんなに俺の顔を見てどうしたんだ。まさか惚れたんじゃないだろうな」
「惚れてませんから! 僕が手当してあげた時は目を閉じていてどんな顔をしているのか知らなかったから。見ていただけだよ」
「そうか……ならいいが」
男は僕の答えに納得したようだ。食ってかかるような態度は見られない。
「あなた、名前は? 綺麗な深い青い目をしているんだね」
「俺の名前はアスター。アスター・モルドだ。サメ型人魚族の皇子だ」
「やっぱり!」
めちゃくちゃ偉そうだったし。うんうんと頷いたら、僕の様子が面白かったようで、ぷっと吹き出した。
「お前はなんという名なんだ?」
「僕はルカ・ミリシアだよ。僕も人魚王国の皇子なんだ」
するとアスターは目を丸くして、信じられないとばかりに驚いた。
「ルカが皇子? 意外だな。皇子だともっと身体が大きくて…………いや、何でもない」
「いいんだ。どうせ僕は華奢ですよー。皇子らしくないや」
すごく落ち込んでしまい声の張りがなくなり、顔もだんだんと下を向いて俯いていく。
「でも、悪くないぞ。むしろ俺は好感を持った。ハッキリと思っている事を話す所もな。そちらの人魚族は人間と多く交配してきたのではないか? 人間に気に入られやすいような見た目を求めてそのような容姿になっていった。違うか?」
「違わない。何でわかったんだ。歴代の王達はみな身体が華奢で、人間を虜に出来るように次の交配相手である人間もなるべく見目麗しい者ばかりを選んできたからこうなってしまったようだよ」
この華奢な身体付きは自分では良く思えなくて他の人魚達がうらやましかった。王族以外の人魚達は人魚同士で交配する事も多かったからだ。
「人魚族に女はいない。仕方のないことだ。俺達サメ型人魚族は、他にも似たような存在のもの達が近くにいて交配してきたから、人間を交配相手にすることはあまりなかったようだ。俺の目にはルカが魅力的に見える。怪我をした俺の手当をしてくれる優しい所もだ」
アスターの身体を見るとやはり僕とは違い、サメ型だ。方や僕は鱗のある魚型。二人とも人魚だけれど、遠いむかしに一つの種族だった仲間。
「僕、人生の伴侶を見つけなくちゃいけないんだ。人間の……でも」
「俺じゃ駄目か?」
アスターが情熱的な視線を寄越す。色っぽい目付きでこちらを見やり、腕を回して、肩を抱く。太く大きな上腕は筋肉が目立ちとても男らしい身体つきだ。
「でも、出会ったばかりだし、それにアスターも人魚だし、種族も違う」
口ごもるように、自分の口からは否定の言葉しか出て来ない。
「俺は国の中で、自分で言うのも何だけど、結構人気があるんだぜ。見た目も悪くない、むしろ最高だろ?」
ちらりとアスターを見ると確かに凜凜しく端正な顔立ちで、力強さに溢れ、誰が見てもかっこいいと思うはず。その上、濃い青色の瞳はミステリアスに輝き魅力的である。
「うーーん、でも、人間じゃないし、サメ型人魚だし、男だし」
またしても否定の言葉ばかりが溢れるが、迷いがある口調なのはアスターには丸わかりだろう。
「俺にしておけよ。人間じゃなくても、容姿端麗だろ、それに、人魚族同士だから生活環境の変化もそんなにないはずだし、何より人魚同士でも交配出来るだろ」
「そうだけど」
まだまだ迷いがある僕を見かねたアスター。
「もうそんなのはどうでもいいさ。俺はお前が、ルカが気に入った。問題は山積みかもしれないが、そんなことは些末なことだろ? ほら、こうして」
いきなりアスターの唇が僕のそれに触れ優しいキスを重ねた。
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