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③
side.Kousuke
「コースケ。」
呼ばれたところで、なんと返事をしたらいいのかが判らなくて。もどかしい思いを代弁するみたく、遥に回した腕に力を込めてみる。
遥はそれだけで全てを理解したように。
しょうがないなぁと楽しげに、ひと言呟いた。
顔は見えないがきっと。
いつもの困ったような顔して、笑っていたんだと思う。
「はる、か…」
気持ちばかりが先走り、腕の力加減が全く出来ない。
それに対し遥は何も言わず、ぽんぽんとあやすみたいに。俺の手を優しく叩いてくれた。
「はるか、はるか…」
「ホント甘えん坊だなぁ、お前は…」
俺がいつか、ひとりでも大丈夫になったら。
遥は俺を置いて、誰かの所へ行ってしまうんじゃないだろうか…。
そんな不安に駆られ、
何度も何度も名前を呼んで確かめる。
今は、俺の中。
このままずっとこうしていられればいいのに、と。
そんな想いを込めて俺は遥の名を、必死で呼び掛けた。
「大丈夫だって、晃亮。」
俺はお前を見捨てたりしない。
最後までちゃんと、“ここ”にいてやるから───
「たく…なんて顔してんだよ。」
向き合って交わしたその目は、
何よりも確かな光だと信じられた。
「はぁ~…しかしマジどうすっかな~…」
おばちゃん、きっと紹介しろってウルサいんだろうな…。そうボヤいた遥は、本当に困ったように笑う。
そしてまた、次には悪い顔をして。
俺を捕らえるんだ。
「そうなったら、びっくりすんだろうなぁ~おばちゃん…」
いっそ本気でお前の事、紹介しちまった方が良くないか?と、遥が俺に聞いてくるから。
「それでいい。」
あのおばちゃんは嫌いだ、でも。
それで遥が二度と、お見合いをしなくて済むのなら…
「へぇ…珍しいな、晃亮。」
人見知りな俺が、自ら会うと申し出たのを。
遥は驚いたようにして、目を丸くしながらも雑に頭を撫でてくる。
そんなこと、当然だ。
「はるかは、俺のだから。」
「!!ッ…そうきたか…」
上等だよ…遥はどこか嬉しそうに眉根を下げて。
乱暴に俺の顔を引き寄せた。
顎髭が、少しくすぐったい。
言葉にして吐き出せば、思い知らされる。
誰かを求めるということが、どういう意味を持つのかを。
それは、
「はるか…」
お前が俺に教えてくれたのだから。
これからも、ずっと。
「急かすなよ…コースケ…」
俺を甘えさせてくれればいい。
…end.
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