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純愛Ⅳ《咲輝side》1
ゲームを始めて5ヶ月が経った6月下旬のことだった。
「撮影?」
「あぁ。父と一緒に泊まりがけで台湾に。来週から10日間」
多忙な父に同伴して、撮影と編集の仕方をレクチャーしてもらうことになった。
緋禄は少しだけ寂しそうな顔をした。
「そうなんだ…」
「7月6日に日本に戻ってきて、この近くのホテルで3日間父と一緒に編集作業を教わる予定だ」
本当は一緒に緋禄を連れて行きたい。
離れる時間が惜しい。
「そっか…」
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫だよ、気にすんなって!寺伝といるからさ」
ゲームを始めて緋禄を今まで以上に知り、日々惹かれていく自分がいた。
「ねぇ咲輝、しよ」
この笑顔も、
綺麗な瞳も、
白い肌も、
サラサラした髪も、
俺を呼ぶ声も、
―…全て今は俺のもの
「じゃあ、行ってくる」
「気を付けてな。着いたら連絡しろよ」
「あぁ。緋禄も気を付けて」
本当の恋人同士のような会話をして日本を離れた。
日本と台湾の時差は1時間ほどしかないため、緋禄とは毎日やり取りすることができた。
今何をしているとか近況報告がほとんどだったけど、緋禄が傍にいるみたいで嬉しかった。
台湾での撮影も、やはり風景のみだった。
本当は人物を撮影したい。
でもそれは許されることではなかった。
前山という名前が邪魔をする。
「请给我拍照 」
撮影の休憩時、小さな女の子に声をかけられた。
カメラを指差し、自分を撮って欲しいと言っていた。
「好的 」
カメラを向けると、可愛らしく笑顔でポーズを決めていた。
レンズ越しに見るこの世界で、俺に向けられた笑顔を撮影する。
「谢谢 」
「不客气 」
あぁやっぱり、俺は―…
7月6日の夕方帰国してホテルに到着し、父と別れ自分の部屋へ向かった。
明日から3日間、父から編集を教わる。
この1週間移動と撮影ばかりで少し疲れた。
ベッドに横になり、撮影した写真を見返す。
誰もいない風景写真の中で、ふと女の子の写真が現れた。
可愛い笑顔だったな。
やはり俺は人を撮りたい。
人を描きたい。
その時にしか撮れない表情を。最高の瞬間を。
写真や絵で表現してみたい。
そう思いながらシャワーを浴びて、まだ早い時間だったが寝ようと思っていると緋禄から着信があった。
「どうした?」
『あぁ、咲輝。元気?』
「元気だよ」
久しぶりの緋禄の声に癒された。
『実は今、咲輝のホテルのロビーにいるんだ』
「え?」
緋禄に逢えるのが嬉しくて、急いでロビーへと向かった。
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