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第2話
そして──この青いリボンは。 詩雨は、床に落ちたレースのリボンを拾い、大切そうに見つめる。
(遥人……)
そのリボンは、同居人であり、恋人でもある遥人が贈ってくれたもの。
学生時代からモテて何人もと関係を持っていた遥人だが、誰かにプレゼントしたのは初めてだ、と言っていた。人気モデルのわりに、プレゼントを選んだり贈ったりする姿がぎこちなく、可愛くさえ思えた。
詩雨の瞳の色に似た色。そして、陽に透けて金色に輝く髪に、この青がよく映える──彼はそう言って、このリボンを渡した。
包装もしていないそのままで。
伸びたとはいえ、後ろ髪を結ぶのがやっとで、さらりとした髪からは、時々するりと落ちてしまうことがある。
(遥人 …… 。パーティー、断ってくれると思ったのに ……)
項垂れて小さくため息をついた後、もう一度がしがし頭を掻く。
「あー。もう、上に行こう」
★ ★
スタジオの上が事務所。その上が詩雨と遥人の自宅だった。
撮影スペースの右側、ちょうど階段下に当たる場所に、機材や撮影用の小道具を保管する細長い小部屋がある。
詩雨は壁面の棚にカメラを置き、立ち去ろうとした。その瞬間、スタジオ側の壁に寄せてあった机の上に手が当たってしまう。
ガサガサっと物が落下する音。
いろいろ積み重なっていた為、連鎖的に落ちてくる。
「あ、やべっ」
詩雨は手にしていたリボンを机の上に置いた。それから、しゃがんで、落ちた物を一つ一つ確かめながら、机の上に載せて行く。その中に、ハロウィン用の小道具も混じっていた。
「ハロウィン……のは、もう片付けなきゃな。あ、これは返しにいかなきゃ」
八月に、SUKU プロのアイドルユニット数グループの、ハロウィン向けの撮影をしていた。
ハロウィンの小道具の中には、もともとあったもの、新しく購入したもの、SAKU プロで用意したもの、様々混ざりあっていた。
数年前まで、正体を明かさない写真家『SHIU 』は、人物の写真を撮っていなかった。正確には、親しい間柄の人間の依頼では撮っていたが、『SHIU 』の名は出してはいなかった。
しかし、いろいろ吹っ切れた三年程前からは、人物を撮ることは相変わらず少なくても、写真にはその名を入れるようになった。
「これは……」
澱みなく片付けをしていた詩雨の手が止まる。彼が手にしたのは、黒い猫耳のついたカチューシャだった。これもハロウィン用の小道具だ。
★ ★
SAKU プロのアイドルユニット『なないろ』の撮影をしていた日のこと。
メンバーが引き上げた後、詩雨はスタジオにあるパソコンで今日撮った写真のチェックをしていた。
「ただいま。詩雨さん」
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