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第4話
詩雨は写真を撮りながら、次第にソファに近づいていく。 全体像から、顔アップへ。顔の間近で、正面から、横からと角度を変えて。
(あー、牙ほしい。でも、アレ、さっき他のヤツが使ったからダメだーっ)
などと考えていると、ぐいっと腰を掴まれ、遥人の膝に乗るような形で抱き寄せられる。
「はるとっ、なにっ」
「そんなに近づいて。俺に血を吸われたいの?」
「ばかっ、何言って……」
遥人が項に唇を寄せる。青いレースのリボンで結ばれた短い髪が、ぴょこんと揺れる。
「俺のあげたリボン、使ってくれてるんですね。嬉しい」
肌に唇をつけたまま喋るので、妙に擽ったい。ぴくぴくっと、詩雨の身体が微かに震える。
その微かな反応を楽しみながら、ちゅうっと項を吸う。唇を離すと白い肌がそこだけ紅く色づいた。
「ばかっ、外から見えるだろっ」
カメラを持っていないほうの手で、遥人の頬をぐっと押し退けた。顔が自分から離れたところで、さっと立ち上がり、階段下の小部屋に向かう。
去っていく背に、
「見えないでしょ。パーテーションあるし」
と、笑い混じりに遥人が言う。
「見えるっ」
確かに撮影スペースの前には、パーテーションがあり、見えない可能性のが高い。それは詩雨にも解っていた。
後ろから見たその首筋は、ほんのり紅かった。
「ほんと、いつまでも……」
──慣れなくて、可愛い。
その言葉を、胸の内で呟いた。
「いいから、早く上行けよっ。それも、そこに置いてっていいから。片づけも明日する」
「うん」
詩雨が小部屋に入る前に、遥人の返事が聞こえた。
★ ★
詩雨は機材や小物が置いてある壁面の棚にカメラを置くと、そっと遥人が吸いついた辺りを手で撫でる。
(アイツ……)
心臓がばくばくしている。
心も肉体も繋がって、もうすぐ三年。 それ以前は二年程、お互い気持ちも欲も抑えて接してきた。
しかし、詩雨がはっきりと気持ちを伝え、恋人同士になってからは、それなりに身体も繋いできた。それだけの月日を重ねても、未だに詩雨は初さを残している。
突然あんなことをされては、当然心臓が跳ね上がってしまう。しかも、自宅エリアではなく、仕事場だ。
(仕事場では、何もするなって言ってるのに)
時折、スタジオや事務所で仕掛けてこようとするので、その度に窘めていた。
カメラを棚に置いたものの、そこに向かったまま考えごとをしている詩雨の後ろに、人の気配。
それを感じたかと思うと、頭にしゃっと何かが刺さった。
「わ、なにっ?!!」
振り返ると、上に行ったものとばかり思っていた、遥人の姿。
そして──その頭の上には。
「ひっ」
またも、詩雨の口が変な声が飛び出す。
(ケモミミっっ)
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