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第13話
「わっ」と、飛び上がりそうな勢いで吃驚する。振り返ると、やはり同じように吃驚した顔をしている遥人と眼があった。
「遥人……」
「詩雨さん、顔真っ赤。どうしたんです?」
「気のせいだろ」
つい今まであの夏の出来事を思い出していたとは悟られたくなくて、すっと視線を外す。
「ちょっと小道具落としちゃって、片づけてるだけ。おまえこそ、パーティーどうしたんだよ? ずいぶん早いじゃないか」
遥人はパーティー仕様の格好をしている。
普段着としては着ないような、少し派手な印象のあるワインカラーのスーツ。紺色のネクタイ。
襟とポケットの間をチェーンで繋いだ洒落たブローチ。
アッシュグレイの髪もきちんとセットしてある。
パーティーに行ったことは、間違いない。
確かここに入る前、壁掛け時計は九時少し前だった。どれだけぼうっとしていたか分からないが、まだ十時にはなっていないだろう。
SAKU プロのパーティーならきっと午前様。なんなら、オールでやっちゃうくらいだろう。
「詩雨さんが淋しいかなっと思って」
「そんなことない。別に淋しくなんかない」
ぴしゃっと否定するが、本当は仕事なんかなかったこと、遥人が自分を選ぶと思っていたこと、彼にはすべてお見通しだと解っていた。
片づけると言いつつ、手は少しも動いていない。
「ごめん」
背中から片腕を前に回し、緩く抱きしめる。
「SAKU プロから招待受けたからには、少しでも顔を出さないと。社長の顔が立たないから」
耳許で疲れたような掠れた声がして、詩雨はもう反論しなかった。そういうことは、解らないでもない。
「うん……」
「ほんとに。ごめん」
もう一度謝ると遥人は、詩雨の髪に鼻先を埋め、二度三度と息を吸い込む。
「ね、詩雨さん」
しばらく癒された後、さっきとは打って変わった明るい声でその名を呼ぶ。
詩雨の眼の前に、余り大きくない箱が現れた。
「ケーキ貰って来たんだ。いっしょに食べましょ」
じゃーんと効果音がしそうなくらいに楽しそうな顔をしている。
「あ、うん。じゃあ、ここ片づけてから。おまえは先行ってていいよ」
「詩雨さん、俺がここ片づけるから。この机の上に置いておけばいい? 詩雨さんは、はい、これ」
と、ケーキの箱を手渡す。
詩雨はなんとなく遥人の態度に不審なものを感じたが、
「ケーキ持って上行ってて。お茶入れてくれると嬉しい」
そう押し切られてしまった。
腑に落ちなさはあるものの、流れ的には可笑しくもなく、ケーキを持って二階へ上がった。
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